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NEB法を用いたMOFのCO2吸着ダイナミクスの解析

事例提供者:
東京科学大学
(Institute of Science Tokyo)

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テーマ概要

カーボンニュートラル社会を実現するために、温室効果ガスであるCO2を回収、分離する技術の確立は喫緊の課題となっています。金属イオンと有機多座配位子が連続して結合することで構築される細孔性材料であるMetal-organic frameworks(MOFs)は、構成要素(金属や配位子)を変更することで構造や物性を調整可能であり、その設計性の高さから分離技術の分野において注目される物質の一つです。

文献1の研究では、外部との接点を持たない孤立した細孔を有するMOFを開発しました。そのMOFは構造中に明確なCO2の移動経路が存在しないにもかかわらず、CO2を選択的に吸着・貯蔵することができます。この特異的な吸着現象のメカニズムを解明するために、MatlantisTMを用いたシミュレーションを実施しました。

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計算モデルと計算方法

計算対象としたのはCO2もN2も吸着しないMOF①と、N2を吸着しないがCO2を吸着するMOF②を計算対象としました。どちらも孤立空間の細孔を持ち、一見すると分子が細孔に入り込むことはできません。

CO2の吸着経路の特定のためには、化学反応の遷移状態を計算する手法であるCl-NEB法を用いました。MOFの1つの細孔内に1つのCO2分子が取り込まれた状態を始状態(IS)、隣接した細孔内にCO2分子が取り込まれた状態を終状態(FS)として、始状態と終状態のあいだの状態を求めました。

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計算結果と展望

MOF②におけるCO2吸着の計算結果は、右に示した図のようになりました。CO2が通過する瞬間のみMOFの骨格構造に微細な変化が生じ、CO2が移動できる通路が現れます。CO2が通り過ぎると通路が消失することでCO2が細孔内に閉じ込められます。CO2が通過するときには一時的にエネルギー不安定な状態になり、このことはCO2の吸着に活性化障壁が存在することを示唆しています。

MOF①のCO2とN2の吸着や、MOF②のN2の吸着に対して同様の計算を行うと、活性化障壁はMOF②のCO2吸着よりも大きくなることがわかり、実験的に観察された結果との整合性が確かめられました。また、X線結晶構造解析でも吸着前後や吸着の最中にMOF骨格の明確な構造転移は確認されておらず、シミュレーションで見られた原子の挙動も実験を裏付けるものになっています。

MOFは構造複雑性から計算コストや計算精度に課題があり、MOFの吸着特性の計算にはMOFの部分構造のみを取り出したモデルによる計算や、MOF骨格の原子位置を固定したモデルでの計算が広く用いられていました。一方で、MOFはガス吸着時にしばしば構造変化を起こし、MOFのガス吸着特性にはMOF骨格の柔軟性が大きく寄与することが一般的に知られています。Matlantisによって、MOFの完全な構造に対して構造柔軟性を考慮した計算を高速に行えることは、今後の新規MOF設計に重要な示唆を与えると期待されます。

計算条件

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参考文献

[1] T. Shimada et al. Adv. Sci. 2024, 11, 2307417 [2] G. Henkelman et al. J. Chem. Phys. 2000, 113, 9901. 

関連資料

[3] 講演動画 [4] 東京工業大学ウェブサイト 
新規な「Magic door」機構によるCO2の選択的捕捉 カーボンニュートラル社会の実現へ向け革新的MOF素材を創出 | 東工大ニュース | 東京工業大学 (titech.ac.jp)
[5] ENEOS株式会社ウェブサイト
新規な「Magic door」機構によるCO2の選択的捕捉に関する研究成果がAdvanced Scienceに掲載(2023年11月)|研究所NEWS & TOPICS|研究開発特設サイト (eneos-rd.com)

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Features
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Matlantisの3つの特長

革新的なマテリアルの創出に貢献し、持続可能な世界を実現するために「Matlantis」は生まれました。

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現在96種の元素に対応しております。これは自然界に存在するすべての元素を含むため、ユーザーは元素種の制約をほとんど受けることがありません。これらの元素種について、未知の材料を含む分子や結晶など任意の原子の組み合わせに対してシミュレーションすることが可能です。

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ブラウザを立ち上げれば
シミュレーションを開始できます

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