高分子材料の密度計算
事例提供者:
東京科学大学
(Institute of Science Tokyo)
テーマ概要
ポリマー材料には様々な用途があるが、例えば薄型レンズ等の光学デバイスでも実用化されている。
このような光学用途で分子設計を行う際には、屈折率の予測が必要となる。
屈折率に大きな影響を与える因子として、材料密度があげられる。しかし分子間相互作用やパッキング状態等も考慮しようとすると、計算コストが大きく上昇する課題があった。
そこで PFP を用いて高分子の密度計算を行い、屈折率を予測する手法を検討した。
計算モデルと計算方法
密度計算の一例として、我々はポリマーのユニット構造を対象にした。
まず、そのユニット構造から20分子程度を抽出し、シミュレーションセル中に配置した。次に、PFPを用いて構造最適化を行い、結果から密度を推定した。
また、結果の再現性を確認するため、分子の初期配置を変えたモデルを10回ランダムに生成し、それぞれについて同様の計算を行った。
計算結果と展望
Polymer Databaseに収録されている約40種類の高屈折率ポリマーについて、密度の計算を行った。
その結果、計算された密度と実測値の間の相関係数は0.93と高い一致性を示した(上図左) 。この値は、RDKitモジュールを用いて真空中の単一分子を仮定して計算した値よりも優れていた。一方、本方法では予測値は実測値よりも一般的に低くなる傾向にあった。これは、シミュレーションでは分子が高分子鎖としてモデル化されていなかったためと考えられる。この問題を解決するため、我々は5つの単位が連なったオリゴマーを用いてパッキング状態の追加シミュレーションを行い、系統誤差がほぼ消失することを確認した(上図右)。
今後は、PFPの精度の高さ、スピード、汎用性を活かした高屈折率のポリマー探索を継続する。また、PFPは本用途に限らず、有機材料の階層構造に踏み込む上で、有力なツールになりつつあると考えられる。