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ZnDTP潤滑油添加剤の表面反応ダイナミクス

兵庫県立大学 鷲津研究室

テーマ概要

潤滑油は、自動車・建機・家電など身の回りの様々な製品に用いられており、機械をスムーズに動かし、故障を防ぐ上で欠かせない存在です。

潤滑油には、性能向上のため添加剤が配合されています。中でも、ZnDTP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)は有名な添加剤です。古くからその作用が研究され、化学反応により複雑な物質変化を伴うことがわかっています。詳細なメカニズム解明のため、分子シミュレーションも適用されてきました。しかし、ZnDTPが複数種の元素で構成されることから、高精度な力場の作成自体が困難でした。

今回、化学反応を観察可能かつ各種元素の組合せに対応するMatlantisを用いて、ZnDTPの化学反応ダイナミクスを計算しました。

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計算モデルと計算方法

Matlantis上でZnDTPの分子構造を作成し、機械のしゅう動面を模した①α-Fe2O3(0001)表面に配置しました。ZnDTPを構成する4つのアルキル基Rは、プロピル基またはブチル基としました。また、しゅう動面の自然酸化膜が剥落し、新生面が露出した状況を模擬して、②α-Fe(110)表面上にZnDTPが配置されたモデルも作成しました。これら2つのモデルに対して、Matlantisによる分子動力学(MD)シミュレーションを行いました。

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計算結果と展望

MDシミュレーションの結果、①α-Fe2O3(0001)表面のZnDTPは吸着するのみで、分解反応は確認されませんでした。一方、②α-Fe(110)表面では、時間の経過に伴ってDTPやZnが解離するなどの分解反応、Pの配位状態変化などが観察されました。電荷の変化を解析した結果、①ではZnDTPと表面との間でほとんど電荷移動しないのに対し、②では顕著な電荷移動が生じました。このように表面性状がZnDTPの電荷状態に影響を及ぼすこと、それによって反応性に相違が生じることを明らかにしました。また、①の温度を673 Kとしたところ、2つのDTPに分解する反応が生じ、実験による想定[1][2]と一致する結果を得ました。

前述の通り、本計算で扱ったモデルは、ZnDTPを構成する亜鉛・硫黄・リン・酸素・炭素・水素と表面の鉄を加えると、7種類の元素を含みます。例えば従来の古典MDによる検討では、複数元素の組合せを網羅した力場の作成が必要であり、シミュレーションを始めるまでに多大な時間を費やしていました。一方、Matlantisは元素の組合せを気にする必要がなく、ユーザーによる力場作成が不要であり、「気軽に」複雑系の化学反応シミュレーションを始めることができました。

このような強みを活かし、例えばモリブデンを含んだ添加剤とZnDTPとの相乗作用や、最適な反応条件を明らかにするなど、これまで手が出しにくかった「かゆいところに手が届く」シミュレーションが期待されます。

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参考文献

[1] K. Ito, J. M. Martin, C. Minfray, K. Kato, “Formation Mechanism of a Low Friction ZDDP Tribofilm on Iron Oxide”, Tribol Trans., 50, 211-216 (2007). https://doi.org/10.1080/10402000701271010 [2] H. Spikes, “The History and Mechanisms of ZDDP”, Tribol. Lett., 17, 469-489 (2004). https://link.springer.com/article/10.1023/B:TRIL.0000044495.26882.b5
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Features
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Matlantisの3つの特長

革新的なマテリアルの創出に貢献し、持続可能な世界を実現するために「Matlantis」は生まれました。

汎用性/ Versatile

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幅広い元素・構造に対応

未知の材料を含む、分子や結晶などの任意の原子の組み合わせにおいてシミュレーションが可能です。現在は72の元素をサポートしており、今後さらに拡大予定です。

高速 / High Speed

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従来手法の10,000倍以上高速

DFT(Density Functional Theory:密度汎関数法)では、高性能なコンピュータを用いて数時間~数カ月かかった原子レベルの物理シミュレーションを、数秒単位で行うことができます。

使いやすさ / Easy to Use

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ブラウザを立ち上げれば
シミュレーションを開始できます

学習済み深層学習モデル・物性計算ライブラリ・高性能な計算環境をパッケージにすることで、ハードウェアの準備や環境構築をすることなく、シミュレーションによる材料探索が可能です。また、従来の機械学習ポテンシャルとは異なり、ユーザーによるデータ収集や学習が不要です。

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