第1回Matlantis User Conferenceの講演動画・資料を公開
PFCCは2022年12月2日に第1回Matlantis User Conferenceをオンラインで開催し、Matlantis™のコア技術や今後のロードマップに関するPFCC/PFNの講演に加え、アカデミアユーザー様・企業ユーザー様よりそれぞれの活用事例について発表いただきました。当日は合計131名の方にご参加いただきました。
以下に、Matlantis User Conferenceの各講演の概要と録画・投影資料を順次公開します。
Matlantisに込められた技術・思想
株式会社Preferred Networks リサーチャー 高本 聡
発表資料
概要
Matlantisのコア技術であるPFP(Preferred Potential)は、物理シミュレーションと深層学習の融合を目指して行われてきた一連の研究の集大成です。PFPは、原子シミュレーションの支配方程式をニューラルネットワークとして解釈する研究が端緒となっています。この研究成果を通して深層学習の高い表現力の有効性を確信した後、米マサチューセッツ工科大在籍中にTeaNet(Tensor Atom Embedding Network)というニューラルネットワークポテンシャルを設計しました。TeaNetは、原子の位置関係をテンソルとして表現することでグラフニューラルネットワークと物理モデルの融合を試みたものです。このTeaNetを使うことで、広範な現象を統一的に表現可能な原子間ポテンシャルの実証に成功しました。
同時期にさらなる発展を遂げた深層学習の技術をもとに、深層学習を利用することで世界の解像度を大幅に上げることができるとの考えに至りました。そして、計算化学の分野で100年越しの悲願ともいえる「あらゆる原子構造を表現可能な原子間ポテンシャル」の作成に取り掛かりました。そうして作られたものがPFPです。
PFPは様々な材料に適用できるよう、汎用性を重要視して作られています。そのため、学習用のデータセットが特定の材料に限定されないよう、機械学習モデル自身が探索する手法を採用しています。大規模かつ多様なデータセット、およびそれを作るための大規模な計算資源がPFPの性能の源泉となっています。
PFPをコア技術とした材料探索用シミュレーターMatlantisによって、シミュレーションによる材料探索が可能になりつつあります。今後、Matlantisを材料の世界を俯瞰するツールに育てていき、材料探索の「自動運転」を実現していきます。
アカデミア様ユーザー事例:Matlantisを活用した蓄電池材料研究
名古屋工業大学 中山 将伸様
発表資料
概要
Matlantisは、高速・高精度かつユーザーによるポテンシャルの準備が不要な材料シミュレーションです。本講演では、蓄電池材料を題材に、高精度第一原理計算結果との比較例の紹介や、既存の第一原理計算では評価が困難であった表面や界面でのシミュレーション結果を紹介します。
Matlantisのこれまでとこれから
株式会社Preferred Computational Chemistry 代表取締役社長 岡野原 大輔
発表資料
概要
Matlantisを開発するにあたり、まず議論となったのはどんなユーザーインターフェースにするかでした。Matlantisユーザーの研究活動を見てみると、材料開発の研究活動に典型的なフローがあるわけではないことがわかったため、一定のフローのUIを作りこむのではなく、まずはブラウザ上で作動するJupyter Notebookのプログラミング環境を提供しました。これにより、ユーザーがワークフローをカスタマイズしやすい形にするという結論に至りました。
Matlantisを支える「学習データ」については、Preferred Networks(PFN)の国内最大級のスーパーコンピュータを活用し、GPU1台に換算すると約1,000年分の計算リソースを利用して学習データを作成しました。また、お客様からのフィードバック(コミュニティレベルでのアクティブ・ラーニング)をもとに対応現象を拡大する方針で、今後も学習データ収集を継続します。
直近のMatlantisアップデートとしては、PFNの最先端コンパイラ・最適化技術を利用し、推論時のメモリ使用量を改善する「PFVM技術」の適用による推論可能原子数の増加があり、これによりカーボンナノチューブ等(条件によりますが数千から1万原子を超える)原子数の大きな材料の取扱いも可能となりました。
Matlantisに限らず「シミュレーション」という枠組みで捉えると、シミュレーションはあくまでも現実世界の「一部」を切り出したものであり、その「切り出し」にノウハウ・アートの要素が含まれます。Matlantisは今後、シミュレーション技術・計算性能を向上させていくことで、不必要な「アート」を少なくし、より広い範囲の問題が扱えるようになることを目指します。もちろん、現実世界のスケールは圧倒的に大きいのでどれだけシミュレーションが進化しても、人間による創意工夫との融合は必要だと考えています。
また、今後の具体的なMatlantisの新機能としては、推論可能原子数のさらなる増大、電子状態の推定、計算資源の強化などを構想しています。「計算資源の強化」については、PFNが開発するディープラーニングプロセッサー(MN-Core)によって、原子レベルシミュレーションを既存GPUより5倍近く高速化できることを確認しており、その将来的な活用を検討しています。今後はそうした計算力をお客様への提供価値としていきたいと考えています。
これからも、弊社ミッション「革新的なマテリアルの創出に貢献し、持続可能な世界を実現する」の達成に向けて、PFCCとMatlantisは進化し続けていきます。お客様をはじめとした皆様とともに、材料科学の新しい未来を切り開いていきたいと考えています。