【アーカイブ配信】名古屋工業大学 中山将伸先生講演 イベントレポート
今回のウェビナーでは、名古屋工業大学の中山将伸先生にご登壇いただき、「全固体電池における電極/固体電解質界面における反応速度」をテーマに、Matlantisを活用した最新の研究成果(※)についてご講演いただきました。130名以上の方々がご参加され、活発な質疑応答が繰り広げられるなど、大変有意義なセッションとなりました。
ウェビナーにご参加いただけなかった方も、ぜひ、資料・動画をご覧いただき、研究の最新知見をお役立てください。
※ Matlantisを活用した最新の研究成果
Universal-neural-network-potential molecular dynamics for lithium metal and garnet-type solid electrolyte interface
参加者の声
- Matlantisでの界面反応のシミュレーション概要と計算手法や流れが詳細に説明されており、勉強になった
- DFT計算とMatlantisの対比が、シミュレーション初学者でもわかりやすかった
- 中山先生と同じく固体電解質の研究をしているため、今回の講演内容と関連する部分が多く、参考になった
講演内容ハイライト
背景・Li/LLZの界面研究のモチベーション
電気自動車の普及に伴い、電池市場は2023年時点で約10兆円規模に成長しています。しかし、従来の液体電解質を用いた電池には安全性の課題があり、代替技術として固体電解質を使用する「全固体電池」が注目されています。全固体電池の実現には、高いリチウムイオン伝導度を持つ固体電解質材料の開発が不可欠ですが、有力な候補材料を見つけることは容易ではありません。
こうした状況の中、2003年にガーネット型の固体電解質材料LixLa3M2O12(略称 LLZ)が発見されました。名古屋工業大学の中山先生は、このLLZを対象とし、特にその界面反応に注目した研究を進めています。従来の計算手法では、LLZとリチウム金属の界面でのイオン交換反応や、界面で生じる原子レベルの反応を詳細に調べることが困難でしたが、中山先生はこれらを解明するためのアプローチに取り組んでいます。
DFT計算によるこれまでの成果(2022年論文)
金属Li/LLZ界面モデルの研究において、DFT-MD計算を試みたものの、192原子や294原子の界面モデルでは計算時間が非常に長くかかり、当時はDFT-MD計算を断念しました。
その代わりに、静的な特徴の計算を行い、原子数を絞った複数の金属Li/LLZ界面モデルを構築し、表面エネルギーの計算や濡れ性の評価を実施しました。
さらに、評価したモデルの中からエネルギー的に安定した金属Li/LLZ界面モデルを抽出し、精度の高いDFT計算を実行しました。その結果、LLZは金属Liによって還元されないことが明らかになりました。加えて、LLZにリチウム欠陥を導入したり、リチウムを格子間に入り込ませて化学ポテンシャルを評価したところ、金属Li/LLZ界面でのリチウム組成は、これまで考えていた計算モデルとは異なる可能性が示唆されました。
Matlantisによる成果(2024年論文)
まず、LLZを計算対象として、Matlantis-MDがDFT-MDの結果を再現できることを確認しました。その後、Matlantisを使用して金属Li/LLZ界面モデルの計算を行い、再現性を確認しました。Matlantisでは、1024原子のモデルを対象にNNP-MD計算を実施しました。
金属Li/LLZ界面モデルについては、温度条件を変化させて1nsのMatlantis-MDシミュレーションを行い、ガーネット層の安定性を確認しました。また、金属Li/LLZ界面でのLiイオン交換の挙動もシミュレーションを通じて調べることができました。その結果、DFT計算に基づく仮説「金属LiのLiイオンがLLZ相に入り込む可能性」が支持されることが確認されました。
さらに、金属Li/LLZ界面モデルに対してMatlantisで構造緩和を行い、その後DFT計算を実施して電子構造を評価したところ、界面でのバンドベンディングが確認され、これによりLLZと金属リチウムの界面安定性が高まることが示唆されました。