逆非平衡分子動力学シミュレーションによる液体粘度の予測

テーマ概要

近年、地球温暖化の抑制の観点から、自動車や家電をはじめとする機械装置に対し、より一層の省エネルギー化が求められています。

省エネルギー化に対して、摺動部の摩擦損失を低減することが有効であることから、潤滑油等の流体には低摩擦化のほかにも、低粘度化が求められています。

流体の設計にあたり、2種以上の混合系や、全く新規な材料の粘度の予測にはシミュレーションが有効です。

そこで、一般的な有機分子であるアルカンを対象に、Matlantisを用いて粘度を計算した結果を紹介します。

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計算モデルと計算方法

粘度計算の一例として、炭素数が5のノルマルアルカンであるペンタンを対象としました。まずは、ペンタンの液体構造をモデル化しました。

シミュレーションセル中に50分子のペンタンをランダムに配置し、NNPによる分子動力学(MD)法により密度が一定となるように体積を調整しました。

なお、結果の再現性確認のため、分子の初期配置を変えたモデルを3つ準備しました。

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2つの特定領域において、速度の符号が互いに異なる原子の運動量を交換し、強制的に速度勾配をつくる逆非平衡分子動力学(RNEMD)の方法[1]により粘度を計算しました。

初期配置の異なる3つのモデルに対し、それぞれRNEMD計算を行いました。積分時間は1 fs、温度は298 Kとし、2×105ステップのRNEMD計算を行いました。

計算結果と展望

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ペンタンの液体モデルに対して行ったRNEMDの結果として、速度勾配の時間平均値、モーメント交換量の積算値を示します。

速度勾配は直線的に変化しており、系が十分に平衡に達していたことが分かります。モーメント交換量についても同様です。

粘度計算の結果および粘度の実験値[2]を表に示します。計3回の計算値共に、実験値から大きく外れることなく、ほぼ一致することが確認できます。定量的に、実験値からのズレは最大でも14%の精度で予測ができました。

今回の事例は単純な有機分子に対するものでしたが、NNPの精度の高さに加え、汎化性に優れる点を活かせば、例えばイオン液体や電解質など古典的力場が定まっていない系、チューニングが必要な系の物性予測への応用が期待されます。

計算条件

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参考文献

[1] F. Müller-Plathe, Phys. Rev. E, 59, 4894 (1999). [2] J. R. Rumble, CRC Handbook of Chemistry and Physics, CRC Press/Taylor u0026 Francis.

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