2025.7.16
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Matlantis、汎用原子レベルシミュレータを大幅アップデート、米国拠点を開設
最新のr2SCAN技術で学習データセットを開発、高速性・汎用性はそのままに
最大2倍の精度で原子レベルシミュレーションが可能に
Matlantis株式会社(代表取締役社長:岡野原大輔、以下、Matlantis)は、このたび、材料探索用汎用原子レベルシミュレータ Matlantis™ をアップデートし、米国マサチューセッツ州ケンブリッジに米国拠点を開設したことを発表します。今回のアップデートではMatlantisのコア技術であるPFP (Preferred Potential)がバージョン8 (v8) となり、高速性・汎用性はそのままに、これまでを大きく上回る精度のシミュレーションで新材料の探索を行い、計算科学の新たな可能性を開くことが可能となりました。
PFPは、Matlantisの親会社である株式会社Preferred Networks (PFN)とENEOS株式会社が共同開発した汎用機械学習原子間ポテンシャル(machine learning interatomic potential: MLIP)で、PFP v8は世界で初めてr2SCAN (restored-regularized strongly constrained and appropriately normed)汎関数とよばれる新しい計算手法で構築した学習データセットによる汎用MLIPです。PFP v7までの学習データセットは、PBE (Perdew-Burke-Ernzerhof) 汎関数とよばれる他社でも広く採用される手法で構築されていましたが、PBEを用いたシミュレーションは現実世界の実験結果の再現性に一定の限界があることが指摘されてきました。
PFNはPFPによるシミュレーション精度の向上を目指して研究開発を続け、PBEを用いた場合の精度の限界を超えるべくr2SCANの採用に至りました。精度が向上する反面、r2SCANでの計算にはPBEと比較して3〜5倍の時間が必要です。PFP v8は、PBEだけでなくr2SCANで構築した大規模なデータセットでPFNがすでに訓練しているため、Matlantisユーザーはこれまでと同じ所要時間で従来比2倍までの精度でシミュレーションを行うことが可能です。
Matlantis株式会社 代表取締役社長 岡野原大輔のコメント:
「今回のアップデートはMatlantisにとって画期的な一歩です。私たちは2021年に世界で初めて汎用MLIPを使った商用のシミュレータをMatlantisとして提供開始しましたが、Matlantisは今回、r2SCANを利用して開発された世界初の高精度な汎用MLIPとなりました。このアップデートにより、コンピュータによる材料探索の時代が一層近づいたと言えるでしょう。Matlantisは今後も、今回拠点を開設した北米を含む世界中の研究者の皆様が革新的で持続可能な物質を発見することを支援していきます。」

現在、Matlantisでは以下のことが可能です。
- 契約したその日から利用
MatlantisはクラウドベースのSaaSのため、契約したその日からブラウザ上ですぐに材料探索を開始できます。Matlantisの機械学習原子間ポテンシャル(MLIP)は既に学習済みのため、ユーザーは機械学習モデルの構築に時間を使うことなく材料探索に集中することができます。 - 多種多様な材料の探索
Matlantisは汎用的なシミュレータのため、未発見の新素材を含め、電池、半導体、触媒など様々な分野の材料を種類ごとにモデルを変えることなくシミュレーションすることが可能です。 - 材料探索プロセスの加速
従来手法であるDFT(Density Functional Theory)計算のみであれば数年以上かかる計算がMatlantisでは数時間で可能なため、材料探索の試行錯誤サイクルを高速で回すことができます。実験結果の確認のために計算するのではなく、計算してから実験に取り組むというR&Dプロセスの転換を実現します。 - これまでにない高い精度のシミュレーション
r2SCANで構築した学習データセットを基盤とすることで、これまでと同じ所要時間で一般的なMLIPよりも高精度に材料のシミュレーションをすることが可能で、シミュレーション結果と実験結果とのギャップをさらに縮めます。
原子モデリングと材料研究の分野で広く知られるMatlantisテクノロジーアドバイザーのJu Liマサチューセッツ工科大学教授のコメント:
「PFP v8によって、周期表の大部分をカバーし、現時点でDFTとしては最高水準の精度を反映した汎用機械学習原子間ポテンシャルがついに利用可能になりました。この精度と速度を兼ね備えた技術により、エンジニアは相図の作成や多成分系のスクリーニングを数週間や数ヶ月ではなく数時間や数日で行えるようになります。これは合金設計や電池材料など、高い価値を持つ応用分野に直接的に役立つ工程です。米国にオフィスを設立することで、産業界や学術機関のパートナーとさらに緊密に連携し、フィードバックループを短縮し、Matlantisの新たな機能をより迅速に市場に投入することが可能になります。」
株式会社レゾナック 計算情報科学研究センター 副センター長 吉田勝尚様のコメント:
「Matlantisのメジャーアップデート、そして米国オフィスの開設、誠におめでとうございます。このたびのプラットフォームの進化が、私たちの材料開発をより一層加速させることを期待しております。 今後のさらなるグローバルな展開と、一層のご発展をお祈り申し上げます。」
PFNとENEOSが共同開発したMatlantisは、2021年7月のリリース以来、すでに世界中の100以上の化学・産業分野をリードする企業・団体に利用されています。現在、Matlantisは産業規模での原子レベルシミュレーション専用に設計された初の商用AIプラットフォームの一つであり、水素からキュリウムまでの96元素をカバーする単一の機械学習型原子間ポテンシャルを提供し、DFTレベルの精度の高いシミュレーションを従来比最大2,000万倍の速さで実現しています。
なお、PFP v8は、PFNのスーパーコンピュータおよび国立研究開発法人産業技術総合研究所と株式会社AIST Solutionsが提供するAI橋渡しクラウド(ABCI)2.0および3.0を用いて開発されました。また、ABCI 3.0の利用にあたっては「ABCI 3.0開発加速利用」の支援を受けました。
Matlantis株式会社について
Matlantisは、革新的な材料・素材の創出を通じて持続可能な世界の実現を目指し、2021年に株式会社Preferred NetworksとENEOS株式会社の合弁会社として設立されました。(2025年7月よりMatlantisへ社名変更)
提供する汎用原子レベルシミュレータMatlantisは、材料特性の原子レベルでの現象解明や新素材開発を実現するためのクラウドサービスです。従来の原子シミュレータに機械学習原子間ポテンシャルを組み込むことで、計算スピードを従来の数万倍に高速化し、幅広い物質への適用を可能にしました。
現在、日本国内を中心に100以上の企業や大学などの研究機関で利用されており、2023年からは海外展開も開始し、マサチューセッツ工科大学(米国)や現代自動車(韓国)などへの導入も進んでいます。 https://matlantis.com/ja/
本件に関するお問い合わせ先
Matlantis株式会社
広報担当:堀野 pr@jp-matlantis.com
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