マテリアルサイエンスの未来:ACS Fall 2025から見る3つの重要トレンド

Matlantisは先日ACS Fall 2025に参加し、多くの研究者との交流を通じて、計算科学の未来を形作るいくつかの明確なトレンドを肌で感じることができました。 展示ブースや様々なプレゼンテーションでの活発な議論をもとに、イノベーションの次なる時代を定義すると私たちが考える3つのトレンドについてお伝えします。(この記事と考察は、Matlantis USチームによって英語で執筆されました。)

*出展告知やイベントレポートは、以下のリンクからご覧いただけます。

トレンド①:AIによる物質探索へのシフト

以前から産業界における計算化学の導入は進んでいましたが、私たちが目の当たりにした真に重要なトレンドは、AIを活用した材料探索の急速な台頭です。
もはや会話の中心は、すでに確立された手法である計算化学の応用だけではなく、それをいかにAIで推進していくかという点にあります。
新材料の最適化や探索において、その主軸はAI駆動型のアプローチへと明確に移行していました。 この進化は、Matlantisのようなプラットフォームを新しいトレンドの最前線に位置づけ、従来の手法を超えてイノベーションを加速させるものです。

booth image
本記事の執筆チームである弊社USオフィスのJoshua(左)Qingjie(中央)がMatlantisブースにて、日本オフィスのRudy(右)とディスカッション中の様子

トレンド②:機械学習原子間ポテンシャル(MLIPs)への信頼の確立

第二の大きなトレンドは、機械学習原子間ポテンシャル(MLIPs)に対する信頼が今や確立されたことです。 わずか4、5年前には、まだかなりの懐疑的な見方が存在していました。
しかし今年のACSでは、企業や大学の研究グループがR&Dプロセスの一部としてMLIPsを標準的に使用している事例を数え切れないほど目にし、その信頼性と予測能力について明確なコンセンサスが形成されていることが示されました。

この軌跡は、密度汎関数理論(DFT)の発展を彷彿とさせます。 15年前、実験化学者はまだDFTの結果に懐疑的でしたが、今日では産業に不可欠なツールとなっています。 私たちは、MLIPsも全く同じ道を歩んでおり 、今後数年で同様に基礎的な技術になる準備が整っていると感じています。

トレンド③:クラウドによる原子シミュレーションの「民主化」

最後のトレンドは、原子シミュレーションの「民主化」であり、これによりシミュレーションがより幅広い研究者にとって利用可能なものになっています。 この動きの重要な推進力はクラウドベースのプラットフォームへの移行であり、これによりオンプレミスの高性能計算(HPC)インフラへの高額な設備投資が不要になります。

この民主化は、主に2つの形で進行していると考えられます。

第一に、シミュレーションの規模を拡大したいという強い需要があります。 研究者たちは、タンパク質やポリマーのような、より大規模で複雑な系をモデル化することに意欲的です。 これはまさに、私たちのLightPFPのような先進技術が解決を目指す課題です。

第二に、実験化学者からの関心が高まっています。 彼らは、計算化学の深い専門知識を必要とせず、予測シミュレーションを自身の研究室での作業に統合できるような、直感的で使いやすいツールを求めています。

シミュレーションの適用範囲を広げ、参入障壁を下げることで、私たちはより幅広い化学者が発見のプロセスを加速できるよう、これからもご支援して参ります。

シミュレーションと実験が融合する未来へ

ACS Fall 2025は、計算材料化学が新たな時代に入ったことを明らかにしました。 AI駆動による発見の台頭、MLIPsへの信頼の増大、そしてシミュレーションツールの民主化は、計算と現実世界の実験との境界が曖昧になり、これまで以上に多くの研究者が画期的な発見をすることを可能にする未来を示唆しています。

私たちはこの刺激的な変革をリードし、マテリアルサイエンスにおける次なるブレークスルーの波を後押しすることに引き続き尽力して参ります。

次のアクションへ繋げる、2つの資料

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