ガーネット型酸化物材料のリチウムイオン導電性評価
名古屋工業大学 中山研究室
テーマ概要
現在のリチウムイオン電池は、可燃性有機電解液を用いていることから、発火・爆発の危険性が課題となっています。不燃性のリチウムイオン導電性酸化物を固体電解質として用いれば安全な電池を作成できますが、リチウムイオン伝導性が十分に高い材料を見つける必要があります。第一原理分子動力学法(FPMD)は高精度なイオン伝導性の評価ができるため、実験による試行錯誤法に代わる有力な材料探索アプローチですが、現在のコンピューターをもってしても計算コストが高く、単一組成・単一条件(温度他)の評価だけでも数週間~数か月の日数を必要とすることがしばしばあります。
今回、代表的な酸化物固体電解質材料であるガーネット型Li7La3Zr2O12材料に対して高速かつ高精度なMatlantisを使い分子動力学法(MD)を実行し、Liイオン導電性を評価しました。あわせて同一条件で実行したFPMDの計算結果と比較評価しました。
計算モデルと計算方法
モデル構造Li56La24Zr16O96(全192原子)を構築し、同一の入力構造に対して定積の第一原理分子動力学計算とMatlantisを用いた分子動力学(MD)シミュレーションを行いました。分子動力学計算の前に、構造緩和を実行して格子体積を決定します。更に、温度1273Kにて、NVTアンサンブル(体積一定)条件でMD計算を実施しました。なお、第一原理計算は32コア並列による計算を実行しています。第一原理計算の詳細条件は論文[1]に準拠しています。
計算結果と展望
同一シミュレーション時間における、MatlantisによるMD計算の速度はFPMDの数十倍以上であり、非常に高いパフォーマンスになることが分かりました。両者の分子動力学計算から得られたイオンの軌跡をもとに、イオン間距離分布を反映した動径分布関数(RDF)と3つのイオンによって定義される結合角の分布を示す結合角分布関数(ADF)を比較したところ、非常に良い一致が確認されました。またFPMD計算過程で出力されるイオン配置のスナップショットに対して、Matlantisで改めて再計算を実施し、得られたエネルギー値と各原子に作用する力をFPMDの結果と比較しました。得られた診断プロット図から、両者で非常によい一致性を得ることができました。このような結果から、Matlantisを使うことで高速にFPMD計算をすることが可能になったことがわかりました。今回は、FPMDの制約から原子数が192原子の小さなシミュレーション格子を用いたため、FPMDとMatlantisの速度差は大きくありませんでした。しかし、Matlantisを用いればFPMDでは到底不可能な大きなサイズの格子でも現実的な時間内に計算をすることが可能になると期待されます。
また、ガーネット型Li7La3Zr2O12材料に対して部分置換した系などのイオン導電性を大量かつ短時間に評価することが可能になり、組成最適化の期間短縮が期待されます。