アンモニア合成触媒開発のための触媒スクリーニング
事例提供者:
ENEOS株式会社
テーマ概要
燃料や化学品の生産と利用、汚染浄化において不均一系触媒が重要な役割を担っています。より優れた触媒を見つけるための方法としてバーチャルスクリーニングが注目されています。不均一系触媒のスクリーニングで最も成功した方法の一つは、スケーリング関係に基づく記述子ベースのmicrokineticsモデルです[1]。この方法では1つもしくは2つの記述子エネルギーの関数として触媒活性をプロットします。触媒活性は、volcano型プロットと呼ばれる火山形の形状を示します。このプロットから触媒活性や選択性を最大化する最適な触媒に関する指針を得ることができます。
今回、計算コストの大きいDFTによる記述子エネルギーの計算をMatlantisで実行することで、超高速な触媒スクリーニングを試みました。モデル触媒反応には産業上最も重要な反応の一つであるアンモニア合成を選択しました。Matlantisを用いて、DFT計算結果の再現と新規触媒のバーチャルスクリーニングを検討しました。
計算モデルと計算方法
Matlantis精度検証
様々な遷移金属に吸着したアンモニア合成に関する中間体(slab, H*, N2*, N*, NH*, NH2*, NH3*)、遷移状態(H-H*, N-N*, N-H*, NH-H*, NH2-H*)について、Matlantisでエネルギーを計算しました。Matlantisを用いてDFT計算結果[2]との比較を行いました。
(*記号は吸着分子を示し、例えばN*は吸着したN原子が触媒表面に吸着していることを表しています。)
アンモニア合成速度計算
Matlantisで計算したエネルギーから記述子ベースのMicrokinetics計算を行い、アンモニア合成速度を求めました。計算ツールとしてCatMAP[3]を用いました。温度673K, 全圧100bar, H2: N2=3:1、2%NH3転化条件下にて計算したアンモニア合成速度を算出しました。
触媒スクリーニング
約2000種類の様々な合金触媒[4]上でのN*吸着エネルギーEN*, N-N*遷移状態エネルギーEN-N*の計算を行いました。そして、計算結果をアンモニア合成速度計算で構築したマップ上にプロットすることで、新規触媒のバーチャルスクリーニングを行いました。
計算結果と展望
Matlantis精度検証
MatlantisとDFT [2]で計算されたエネルギーとの比較結果を図に示します。それぞれのエネルギー値は直線状にプロットされ、金属種、表面化学種の種類に関係なくDFTと同等の精度(R2=0.94)で計算でき、Matlantisの高い汎用性、精度が示されました。
アンモニア合成速度計算
図の横軸はN*の吸着したエネルギーEN*、縦軸はN-N*遷移状態のエネルギーEN-N*を表し、プロットはMatlantisで計算した各遷移金属のEN*, EN-N*を示しています。Matlantisと記述子ベースのMicrokineticsを組み合わせた本検討においても先行文献[2]と同等の精度で計算することができました。
触媒スクリーニング
Matlantisの高速性、高精度、汎化性を活かして、約2000種類の様々な合金触媒上での記述子であるEN*, EN-N*計算を行い、新規触媒のバーチャルスクリーニングを行いました。その結果、アンモニアの生成に対し高活性であることが予測される候補触媒(赤プロット)を複数発見しました。
記述子ベースのMicrokineticsによる触媒スクリーニングは先行研究でも行われていますが、記述子として遷移状態を含む場合には特に計算時間がかかります。本検討ではMatlantisの高速性を生かし、従来よりも高活性と予測される新規触媒の候補を短期間で複数見つけることができました。今後、本技術は新規触媒探索の強力なツールになっていくことが期待されます。