金属-樹脂複合材料における応力-ひずみ曲線の計算
テーマ概要
材料の機械的特性は、航空宇宙・自動車・電子デバイスといった幅広い分野において重要である。金属-樹脂複合材料は電子部品をはじめさまざまな用途で活用されており、金属/樹脂間の強固な接合技術が求められる。しかし、界面の機械的特性を実験で評価することは困難である。
分子動力学(MD)シミュレーションを使うと、金属/樹脂複合界面の機械的特性を評価できる。さらに、その微視的な振る舞いを明らかにすることで、複合材料の研究開発を効率化できる。しかし、従来の古典MDでは、金属/樹脂界面の力場作成が困難であった。
Matlantisはその高い汎用性から、金属/樹脂界面についても高精度に計算可能である。本事例では、鉄スラブと熱可塑性樹脂(PEO)の接着構造について、MatlantisによるMDシミュレーションを行い、機械的特性を評価した。
計算モデルと計算手法
金属スラブモデルは、参照元となる金属のcifデータからAtomic Simulation Environmentを用いて作成した。樹脂構造はRDKitを用いてSMILESから立体構造を作成した。スラブの界面に設けた真空層に樹脂構造を挿入し、蒸気圧の1000倍の外圧をかけて圧縮した。その後、c軸方向への引張シミュレーションを実施することで応力-ひずみ曲線を作成した。
計算結果と展望
c軸方向へ引き伸ばす引張シミュレーションを行った。歪みに対する応力の移動平均から、材料の機械的強度を表す応力-ひずみ曲線を得た。
ひずみが小さい領域において線形近似を行い、この傾きから評価したヤング率は6.95GPaとなった。その後、応力ー歪み曲線は非線形的な振る舞いを示した。ひずみが0.25において降伏点をとり、引張強度は約200MPaとなった。歪みが0.25以上の領域では、応力-ひずみ曲線はなだらかに減少した。計算によって得られた応力ー歪み曲線は、樹脂材料において広く見られる特性と一致している。
このように、MatlantisによるMDシミュレーションを使うと、任意の金属/樹脂複合界面の機械的強度を評価可能である。