計算・実験・機械学習の中で、Matlantisをどう位置づけるか――ソウル大学CCELに聞く、材料探索の研究設計
- ソウル大学校・CCEL(Computational Catalysis and Emerging Materials Lab)
- 業種:アカデミア
- 事業内容:CCEL(Computational Catalysis and Energy Laboratory)は、計算材料科学を基盤として、触媒材料およびエネルギー材料の設計を行う研究室です。計算による材料設計を出発点とし、合成・評価実験による検証、さらに得られた知見の蓄積やAI活用へとつなげる循環型の研究プロセスを特徴としています。 これまでにNature、Advanced Materials、Energy & Environmental Scienceなどの国際学術誌を含むSCIE掲載論文を330編以上発表しており、そのうちImpact Factor 10以上の学術誌に183編が掲載され、40編が表紙論文に選定されています。h-indexは72、総被引用数は18,000回以上に達しています。
ソウル大学校 材料科学工学科 Han Jeong Woo教授
私たちが目指しているのは、単に「予測が当たるかどうか」ではなく、なぜ特定の触媒が高い活性を示すのかを根本から理解することです。
計算化学や機械学習の進展によって、材料研究の手法は大きく広がってきました。一方で、それらの手法をどの段階で使い、どのように実験と結びつけるかは、研究室ごとに独自に突き詰めていく必要があります。
ソウル大学校 材料科学工学科のHan Jeong Woo教授 が率いる CCEL(Computational Catalysis and Energy Laboratory)は、計算・実験・データ・機械学習を研究室内で一体的に扱いながら、触媒・エネルギー材料の設計に取り組んできました。そして、その取り組みの一つの手段としてMatlantisを導入し、活用しています。
本記事では、CCELが計算と実験をどのように行き来しているのか、そして、他の機械学習手法も活用する中でMatlantisをどのように位置づけているのか について、研究室の考え方と実際の使い方を伺いました。
目次
- CCELの特徴ー計算・実験・機械学習をどう組み合わせているか
- 機械学習を取り入れた研究の流れ
- Matlantis導入の背景
- 導入後におきた変化
- Matlantisと他の研究手法の立ち位置
- 今後の期待と展望
Q. まずは、先生の研究分野と研究室(CCEL)について教えてください。
Han先生:
私たちCCELは、計算化学を基盤として触媒およびエネルギー材料を設計する研究室です。主な研究分野としては、温室効果ガス低減触媒、水素燃料電池、固体酸化物燃料電池(SOFC)、リチウム硫黄電池、CO₂電気化学的還元、水分解反応など、エネルギー変換および貯蔵分野に関わる触媒材料の研究に取り組んでいます。
私たちの研究室で大切にしている考えは、単に理論的数値を導き出すことにとどまらず、原子単位での反応機構(Mechanism)を正確に解明し、これまで存在しなかった新しい物質を提示する実質的な貢献を目指すことです。
特にDFT計算、マルチスケールモデリング、そして機械学習原子間ポテンシャル(MLIP)を活用して候補物質を選別し、これを実験的に検証する理論と実験のシナジープロセスを構築しています。

(画像右側) ソウル大学校 材料科学工学科 Han Jeong Woo教授
Q. 先生の研究室は、計算材料科学を軸にしながら、材料合成や評価などの実験にも非常に力を入れているのが特徴だと感じました。この点はいかがですか?
Han先生:
おっしゃる通りです。私たちは、計算と実験を分けて考えるのではなく、同じ研究室の中で両方を行うことを重要だと考えています。
計算によって反応メカニズムや材料の振る舞いを予測し、それを実験で検証する。その結果が計算と一致しない場合も含めて、なぜそうなったのかを議論すること自体が研究の中核だと捉えています。
このような往復を研究室内で完結できることで、計算条件や実験設計をその都度見直しながら、柔軟に研究を進めることができます。
実際に私たちの研究室では、計算と実験を組み合わせた研究を数多く行っており、研究室内で実施した実験を含む論文を41編発表してきました。Nature Communications、Advanced Materials、Energy & Environmental Scienceなどの主要ジャーナルに掲載された研究の多くも、計算と実験を結合した形で進められています。
例えば、ペロブスカイト酸化物における金属ナノ粒子析出(Exsolution)現象の解明や、酸素還元反応(ORR)触媒設計、CH₄酸化およびCO₂還元触媒の開発では、DFT計算を通じて反応メカニズムを理解したうえで触媒組成を予測し、実際の合成や電気化学的評価によって検証するというアプローチを取っています。
国内外のフロンティア研究チームの多くが、計算あるいは実験のいずれかの領域に特化して研究を進めている一方で、私たちの研究室では、計算と実験の双方を同じ研究室内で担い、相互に行き来しながら研究を進めています。
計算、実験、そして近年ではAIも含めて、触媒設計のプロセス全体を一つの循環として回していくことが、私たちの研究室の大きな特徴です。
韓国国内において、このようにAI、計算、実験を融合し、触媒設計の全過程を研究室内で有機的な循環構造として運営している研究チームは限られており、私たちはその一つであると考えています。
Q. なぜ、計算と実験の両方を研究室の中でやることを重視されているのでしょうか。
Han先生:
私たちは、計算と実験のどちらか一方だけでは、材料の振る舞いを十分に理解することは難しいと考えています。計算だけでは実際の反応環境で起こる複雑な現象を完全に予測することは困難であり、一方で実験だけでは、原子単位で何が起きているのかを明確に説明することができません。
私たちが目指しているのは、単に「予測が当たるかどうか」ではなく、なぜ特定の触媒が高い活性を示すのか、どのような原子配列や電子状態が性能向上に寄与しているのかを、根本から理解することです。
最も大きな理由は、研究室内で計算と実験間の迅速なフィードバックサイクルを通じて研究効率を最大化できる点にあります。私たち自身、これまでの研究の中で、実際にそのサイクルを回しながら成果につなげてきました。
例えば、私たちが取り組んできた単一原子触媒(Single Atom Catalyst, SAC)の研究では、Fe、Co、Niなどの 3d 遷移金属を基盤とした SAC システムを対象に、DFT計算を通じて金属中心の配位環境や電子構造が酸素還元反応(ORR)活性に与える影響を体系的に整理し、その仮説を実験によって検証してきました。
特に Fe二重原子触媒(Dual Atom Catalyst)の研究では、隣接する二つの Fe 原子が形成する活性点が、単一原子の場合と比べてどのようなシナジー効果を示すのかを計算によって予測し、実際の合成および電気化学的評価を通じて性能向上を確認しました。この成果はACS Energy Lettersに掲載されています。
このように計算予測と実験検証が継続的に相互作用しながら触媒設計を高度化していくことが私たちの研究哲学であり、研究室内で計算と実験の両方を行う理由です。
計算結果は実験で検証できるか、そして実験結果と合致するか
Q. 計算と実験を往復させながら研究を進めていく中で、計算の「精度」はどのように捉え、どの段階で十分だと判断されていますか。
Han先生:
非常に重要な質問だと思います。私たちは計算の精度を評価する際、大きく二つの基準を設けています。
一つ目は、実験データとの定量的な比較です。例えば、吸着エネルギーや活性化エネルギーといった計算値が、実験で測定された傾向とどの程度整合しているかを確認します。
二つ目は、定性的なトレンドが再現できているかどうかです。私たちは、絶対値そのものよりも、異なる触媒組成間の相対的な活性順序や傾向が実験結果と一致しているかを重視しています。この点が再現できていれば、その計算は材料設計において十分な予測力を持つと判断します。
実際に、3d遷移金属のスクリーニング研究において、VをドープしたTiO₂がCH₄転換反応におけるC₂選択性を向上させるという計算予測が、実験によって検証されたことがありました。このようなケースでは、その計算手法が当該システムに対して十分に有効であると判断します。
また、私たちが開発したCatBenchという方法論を用いることで_幅広いMLIPモデルの性能を体系的に比較・検証することも可能です。nmスケールのCeO₂–Al₂O₃複合構造を対象とした研究では、マルチスケールモデリングの結果が、原子スケールのDFT計算および実験結果と整合することを確認し、マルチスケールでの解析が信頼できることを示しました。
「十分な精度」と判断する基準は、研究の目的によって異なります。材料探索の初期段階では、定性的なトレンドが実験と一致していれば十分と考えますが、反応機構を深く理解する段階では、より精密な手法を用いて精度を高めていきます。
私たちにとって最も重要なのは、計算が実験的に検証可能な予測を提示できているか、そしてその予測が実際に実験と合致するかどうかです。
CCELにおける機械学習手法の10年にわたる発展
Q. Matlantisを使われる以前から、先生の研究室では機械学習を取り入れてこられていましたよね。どのような流れで活用が進んできたのでしょうか。
Han先生:
私たちの研究室では、2016年頃から計算触媒研究にデータサイエンス的なアプローチを取り入れてきました。結果として、約10年にわたる方法論の発展の積み重ねがあります。
最初の段階では、DFT計算を基盤に、触媒金属の種類に応じた吸着エネルギーの線形関係、いわゆるスケーリングリレーションを明らかにする研究に取り組みました。二元合金表面におけるCO₂活性化・解離反応の線形関係の解明や、SOFCカソード材料における陽イオン偏析現象を予測し、材料安定性の向上につなげる研究などがこの時期の成果です。
その後、2017年頃からは、こうした考え方をもう少し実用的な形に落とし込み、触媒性能を迅速に見極めるためのディスクリプターの開発に取り組みました。希土類金属をドープしたCeO₂触媒におけるCO酸化反応を対象に、計算と実験を連携させながら簡便な指標を提示した研究は、その一例です。
次の段階では、このディスクリプター基盤のアプローチを、より多様な触媒系へと拡張していきました。単一原子触媒、SOEC用触媒、M–N–C触媒などを対象に、合理的設計(rational design)がどこまで通用するのかを検証し、方法論としての有効性を確立していきました。
2022 年頃からは、線形関係だけでは捉えきれない複雑な相関関係に踏み込むため、本格的に機械学習モデルの導入を進めました。単一原子触媒の大規模スクリーニング、遺伝的アルゴリズムを用いた触媒設計、ニューラルネットワークによる反応活性予測、さらにはアクティブラーニングを活用した構造最適化などを通じて、機械学習が実際の触媒設計に機能することを確認してきました。
そして最近では、こうした経験を踏まえて、機械学習ポテンシャル(MLIP)を不均一触媒研究にどのように使うべきか、その指針や基準を整理する段階に入っています。MLIP の活用に関する総説論文の執筆や、触媒研究に特化した MLIPベンチマーキングフレームワークであるCatBenchの開発は、その一環です。
このように私たちの研究室では、機械学習を単に「新しいツール」として導入するのではなく、線形関係の理解から始まり、ディスクリプター開発、機械学習モデルの構築、そして MLIP の体系化へと、段階的に方法論を発展させてきました。その積み重ねが、現在の研究スタイルの基盤になっています。

(画像左から)Park Wongyu 氏, Moon Jinuk 氏, Han Jeong Woo 教授, Choung Seokhyun 氏
Q. これまで計算、実験、そして機械学習まで段階的に取り組んでこられた中で、あらためてMatlantisに興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか。
Han先生:
2021年頃から、機械学習原子間ポテンシャル(MLIP)が本格的に台頭し、いわゆる汎用モデル(Universal Model)が登場し始めました。私たち自身も、MLIPが次の重要なフェーズに入りつつあるという感覚を持っていました。
その中で、Matlantisの研究メンバーを通じて、マサチューセッツ工科大学のJu Li教授のような世界的な研究者とも協業しながら、先進的なMLIPを開発しているという話を聞いたことが、最初のきっかけでした。研究コミュニティの中で信頼している同僚の研究動向として、その取り組みに自然と関心を持つようになりました。
その後、2022年から実際にMatlantisを使い始め、他のMLIPと比較しながら検証を進めていきました。その過程で感じたのは、Matlantisのモデルが、特定の系に最適化されているというよりも、一般的な化学的関係(General Chemistry)をよく捉えているという点でした。
Q. 実際に触られて、導入を検討される中で、「使ってみよう」と判断されたのは、 どのような点がポイントになりましたか?
Han先生:
実際に検討していた当時は、機械学習原子間ポテンシャルの多くが、特定のドメインに特化した形で開発されていました。例えば、触媒分野ではOpen Catalyst Project(OCP)、材料分野ではSevenNetやM3GNet、CHGNet、NequIP、化学分野ではQM9やANI系列のデータで学習されたMACEなどが代表的でした。
その中でMatlantisが特徴的だったのは、特定のドメインに限定するのではなく、複数のドメインのデータを同時に学習することで、より一般的な化学的関係を捉えようとしている点でした。これは、私たちの研究スタイルにとって重要なポイントでした。
実際に研究室内でいくつかのベンチマークを行ったところ、私たちが主に扱っている単一原子触媒(SAC)、固体酸化物燃料電池(SOFC)、不均一触媒システムといった対象において、初期検討段階としては十分に合理的な精度を示していることが確認できました。
こうした結果を踏まえて、Matlantisは汎用モデルとして、研究の初期段階で仮説を立てたり候補を絞り込んだりする用途に適していると判断しました。そのため、研究室内でも複数の学生に対して、Matlantisを使って計算を進めてみることを勧めました。
速度とスケールが研究にもたらした変化と、新たな課題
Q. Matlantisを導入されて、計算と実験それぞれの観点で、どのような変化がありましたか。
Han先生:
根本的な研究方法論が大きく変わったというわけではありませんが、いくつか意味のある変化はありました。
一つ目は、計算と実験の間のフィードバックループが速くなったことです。DFT計算の結果を待つ前に、MLIPを用いて先行的に傾向を確認できるようになり、研究の方向性をより早い段階で定められるようになりました。
二つ目は、シミュレーションのスケールが実験に少し近づいた点です。まだ完全に実験と同じスケールで議論できるわけではありませんが、数千原子規模のシミュレーションが可能になり、これまでよりもマクロな視点で触媒現象を捉えられるようになりました。
Q. その変化の中で、特にインパクトが大きいと感じられている点はどこでしょうか。
Han先生:
シミュレーションのスケールと速度の両面で成長があった点だと思います。以前よりも、自信を持って大規模なシミュレーションに踏み込めるようになりました。
一方で、新たな課題も生じています。それが検証の負担(Verification Burden)です。現在でも、MLIPを汎用的に導入することに対しては、世界的に慎重な見方が残っています。その中で私たちの研究室では、CatBench のようなベンチマーキングの枠組みを整備し、総説論文や Perspective論文を通じて、MLIPをどのように選定し、安全に活用していくべきかについて議論を続けてきました。
ソウル大学に移ってからは、SevenNetのような国内で開発された大規模モデルとも比較研究を行える環境が整い、研究としてさらに発展できると感じています。私たちはMatlantisだけに依存するのではなく、複数のモデルを比較・検証しながら、最適な方法論を見極めていくことが重要だと考えています。

ーー研究室に所属されている学生の方にも伺います。
Q. 実際にMatlantisを使って研究を進める中で、「これは助かった」「以前と違う」と感じた点はどこでしょうか。
Choung Seokhyun 氏:
最も大きく感じた点は速度とスケールの両面での変化です。以前はDFT計算のためのモデル構築と収束テストだけでもかなりの時間を要していましたが、Matlantisを活用すれば初期構造探索と安定性評価を迅速に行えるようになり、本格的な研究により多くの時間を投資できるようになりました。またナノ粒子、界面、欠陥など実際の触媒に存在する複雑な構造を数千個の原子を含むモデルで直接計算できるようになり、実験結果との比較がはるかに容易になりました。
そしてAI基盤のシミュレーション技法が世界的に注目される中、Matlantisを活用した触媒研究経験が研究者としてのスキルセットを拡張するのに役立っています。ただしMLIP結果を盲信することはできないため、必ず検証過程を経なければならず、この部分が追加的な負担になることもあります。
一方、肯定的な点はMatlantisがバージョンアップグレードを経て精度が目に見えて向上しているということです。同時にFairChem(旧OCP)、MACE、SevenNetなど他のモデルも一緒に発展しており、研究者の立場からは様々な選択肢が生まれる非常に興味深い状況だと思います。
研究の段階に応じてツールを選ぶ —— Matlantis、DFT、MLIPの役割分担
Q. 現在は、DFTや他の機械学習手法とMatlantisをどのように使い分けていますか。
Han先生:
最近では、研究の段階に応じてツールを明確に使い分けています。
Matlantisは主に初期の研究段階で活用しています。さまざまな触媒組成や表面構造、ドーパント効果を迅速に探索し、有望な候補群を絞り込むためです。新しい元素の組み合わせを検討したり、分子動力学シミュレーションを通じて動的な挙動を把握したりする際には、特に有効だと感じています。
一方で、検証の段階ではDFTを用います。Matlantisでスクリーニングした候補に対して、吸着エネルギーの評価や遷移状態探索、電子構造解析などを行い、論文として報告する重要なエネルギー値は必ずDFTで算出します。また、DFTのデータを用いて、特定のシステムに合わせたMLIPモデルをファインチューニングする際にも DFTは不可欠です。
ただし、Matlantisはクローズドソースのモデルであるため、ファインチューニングができないという制約があります。そのため、場合によってはFairChem、MACE、SevenNet などのオープンソースモデルをファインチューニングしたり、複数のモデルをアンサンブル的に用いたりすることもあります。特定の触媒システムに対して非常に高い精度が求められる場合には、自前で学習させたモデルの方が適しているケースもあります。
Q. そのように使い分けていらっしゃる背景には、それぞれの手法に対して「ここが得意」「ここは別の手法を使った方がよい」といった判断基準があるのだと思います。先生は、どのような観点で判断されているのでしょうか。
Han先生:
私たちは、各手法の強みと限界をできるだけ明確に整理したうえで、特定の方法に偏らずに研究を進めることを意識しています。そのうえで、用途に応じて「何を得たいのか」「どこまでの確度が必要か」「どのスケールを扱いたいのか」を基準にツールを選びます。
Matlantisの最大の強みは、汎用性(Universality)だと捉えています。追加の学習データを生成しなくても、周期表全般にわたるさまざまな元素の組み合わせに比較的すぐ適用でき、一般的な化学的関係をよく捉えている点は大きいです。さらに、DFTと比べて計算が非常に速いため、大規模スクリーニングを現実的な時間で回せることも重要な利点です。
一方で、クローズドソースのモデルであるため、latent spaceの情報を活用したり、特定のシステムに合わせてファインチューニングしたりすることは、現時点では難しい状況です。この点は研究者の立場として、今後の機能拡張に期待したい部分でもあります。
DFTの強みは、信頼性と電子構造情報です。電荷分布や結合状態、エネルギー障壁など、電子レベルの情報を直接得られることは、メカニズム理解や論文化において不可欠です。ただし計算コストが高いため、大規模系や長時間の動力学シミュレーションには限界があります。
オープンソースの MLIP(FairChem、MACE、SevenNetなど)の強みは、柔軟性です。自前データでファインチューニングできることに加え、モデル構造を理解して改良したり、複数モデルをアンサンブルで用いて不確実性を定量化したりすることも可能です。一方で、学習データやアーキテクチャがモデルごとに異なるため、適用範囲や得られる精度も一様ではありません。
そのため私たちの研究室では、CatBenchのようなベンチマーキングの枠組みも活用しながら、複数のモデルを比較・検証したうえで、研究目的に応じて最適なツールを選ぶ形で研究を進めています。

Q. 今後、Matlantisを通して実現していきたいことがあれば教えてください。
Han先生:
Matlantisだけでなく様々な機械学習モデルを複合的に活用する方向で研究を発展させたいと考えています。
第一に、複数のMLIPモデルのlearned latent embeddingを包括的に活用したいと考えています。各モデルが学習した原子環境の表現(Representation)には有用な化学的情報が含まれています。このような情報を抽出し結合して触媒活性予測、構造探索、反応経路解析などに活用できれば、研究の加速化と精密度向上を同時に達成できるでしょう。
第二に、シミュレーションのスケールをさらに拡張したいと考えています。現在数千原子規模のシミュレーションが可能になりましたが、実際の触媒の複雑な現象、例えば焼結、炭素沈着、相転移などを完全に再現するにはより大きなスケールとより長い時間スケールのシミュレーションが必要です。
第三に、触媒発見自動化パイプラインを構築したいと考えています。MLIPを活用した大規模スクリーニング、最適候補選定、DFT精密計算、実験検証まで続く自動化されたワークフローを通じて触媒開発サイクルを画期的に短縮したいと考えています。
第四に、operando条件での動的触媒現象を理解したいと考えています。実際の反応条件での触媒表面の構造的再配列、活性点の動的形成および消滅、不活性化メカニズムなどを分子動力学シミュレーションを通じて解明し、既存の静的計算では説明が困難だった実験結果を原子レベルで理解したいと考えています。
ソウル大学校・CCEL
詳しくは、以下のウェブサイトをご覧ください。
Department of Materials Science and Engineering, Seoul National University, 1 Gwanak-ro, Gwanak-gu, Seoul 08826, Korea
本事例の公開日:2026.03.03