【アーカイブ配信】早稲田大学 関根泰先生講演 イベントレポート

今回のウェビナーでは、早稲田大学の関根泰先生にご登壇いただき、「グリーンでオンデマンド対応可能な低温電場中でのアンモニア分解による高効率水素製造のメカニズム解明」をテーマに、Matlantisを活用した最新の研究成果(※)についてご講演いただきました。140名以上の方々がご参加され、活発な質疑応答が繰り広げられるなど、大変有意義なセッションとなりました。
ウェビナーにご参加いただけなかった方も、ぜひ、資料・動画をご覧いただき、研究の最新知見をお役立てください。
※ Matlantisを活用した最新の研究成果
Hydrogen production by NH₃ decomposition at low temperatures assisted by surface protonics
参加者の声
- 最新の研究状況を大変わかりやすくご説明いただいた
- 先生のお話が非常にわかりやすく、Matlantisの使いどころについても理解できた
- ご発表のほか、Q&Aも充実して大変勉強になった
講演内容ハイライト
研究の背景
地球は宇宙から見ると閉鎖系であり、化石燃料に依存し続けることは持続可能性の観点から限界があります。そこで、地上に存在する資源を活用し、エネルギーを効率的かつ持続可能に利用する技術が求められています。アンモニアは、その高いエネルギー密度と輸送の容易さから、水素キャリアとして注目されています。しかし、毒性や燃焼しにくいという課題があるため、アンモニアを分解し、効率的にエネルギーを取り出す技術が鍵となります。
アンモニアは既に広く生産・利用されており、水素キャリアとしても可能性が期待されています。ただし、現状の分解技術では高温(500℃以上)が必要で、これが実用化の障壁となっています。この課題に対し、低温で効率的に分解を進めるアプローチの一つとして「表面プロトニクス」の活用が注目されています。
関根先生のこれまでの研究では、電場を利用して触媒表面でプロトンを移動させることで、低温での分解反応を実現する可能性が示されました。特に、Ru/CeO2触媒を用い、電場を印加することで、低温でもアンモニア分解が促進されることが実験的に確認されました。
実験結果をもとにしたモデリングとMatlantisによるメカニズム解明
今回の検討において、実験結果に基づき計算化学のモデリングを行い、触媒表面での反応をMatlantisで評価しました。
まず、電場がない場合とある場合の触媒表面の状態を実験結果に基づいてモデル化しました。具体的には、電場がない状態では触媒表面に窒素が修飾され、反応には高温が必要である一方、電場がある場合には水素が修飾され、低温でも反応が進行することが実験的にわかったため、触媒表面の窒素/水素の修飾状態により、電場の有無を表現しました。
また、これらの反応メカニズムを評価するため、500原子規模の界面モデルを構築し、Matlantisを活用して計算を実施しました。その結果、電場の有無で活性化エネルギーや反応メカニズムが異なることが確認されました。特に、電場を加えた状態では低活性化エネルギーとなり、効率的なアンモニア分解が可能であることが示されました。
Matlantisと量子コンピューティング手法を活用した触媒設計の新展開
Matlantisと量子コンピューティング手法や機械学習を組み合わせることで、不均一触媒反応における吸着現象を検証できる可能性が見出されました。例えばこのアプローチにより、1分子や2分子の吸着データから、多分子が最適に吸着する位置を予測することができます。今後、このようなアプローチにより、さらに実験に近い条件下での触媒反応メカニズムの解明を進め、触媒性能の向上を目指した設計指針の提案などが期待されます。