分子計算と機械学習によるSi表面に対する低吸着エネルギー分子のデータ駆動型探索
テーマ概要
半導体製造工程では、Si基板上に残渣を残さない高い清浄度が求められており、新たな薬液の適用が検討されています。一方で、膨大な材料候補を実験的に評価・選定するには、時間的・金銭的コストが大きく、効率的な検討が困難です。
広大な材料空間の探索手法としてベイズ最適化 (BO) による逐次実験計画法とシミュレーションでの物性計算の融合による、データ駆動型探索手法が提案されています。[1]
今回は、HF処理後のSi基板表面の残渣量を吸着エネルギーで評価を行い、膨大な候補材料群から有望な候補を絞り込む、データ駆動型探索フローを構築しました。本フローでは、Matlantisによる計算結果をフィードバックして機械学習モデルを更新する手法を採り、膨大な候補材料から効率的に有望材料を探索しています。

計算モデルと計算方法

Si表面への吸着エネルギーが小さい分子がSi基板表面に対する残渣が少ない材料と考え、HF処理後を想定したH終端のSi表面モデルを、ASEを用いて作成し、吸着エネルギー計算を行いました。
対象となる候補材料群が多様な構造を持つため、Optunaを用いたベイズ最適化による吸着構造探索を行い、最安定吸着構造の吸着エネルギーを取得しました。[2]
吸着エネルギー計算値はAtomistic Simulation Tutorial の Slab + mol energy と同様の手順で下記式にて計算を行いました。[3]
計算結果と展望

図3にMatlantisを用いて吸着エネルギー計算を自動化し、機械学習モデルにてサンプリングを行うデータ駆動型探索フローの概要を示します。 各材料については、RDKit 記述子[4]とForce-Field Kernel Mean 記述子[5]を用いて記述子に変換し、吸着エネルギー予測モデルを構築しました。
自動探索を開始する前にMatlantisにて初期吸着エネルギーデータセットを作成し、元の候補材料群についてスクリーニングを行うことで候補材料群を抽出しました。
本フローは以下の順で予測・選定を行います:
1. 吸着エネルギー予測モデル ;
初めに初期データセット、候補材料群、吸着エネルギー予測モデルのタイプを設定し、吸着エネルギー予測モデルを構築します。
2. 計算分子の選定 ;
選択された吸着エネルギー予測モデルに基づいて予測し、探索アルゴリズムに基づいて、候補材料群から1分子、次回計算分子を選定します。
3. 吸着エネルギー計算 ;
構築した自動実行プログラムを介して、Matlantisで選定された分子の最安定構造探索を行い、吸着エネルギー値を計算します。
4. 計算済みデータセット ;
得られた吸着エネルギー計算値はデータセットに追加され、吸着エネルギー予測モデルを新しく追加されたデータを使って再学習します。
(手順1に戻る)

図4に横軸にサイクル数、縦軸に低吸着エネルギー分子の累積検出数を示します。傾きが急なほど検出効率が高く、より効果的に有望候補材を検出していることを示しています。また、表1には検出効率を示します。
今回は2 つのサンプリング戦略:BO、無作為抽出の検出効率を比較しました。無作為抽出では、元の候補群からランダムに1つ選択しました。
BO ではサイクル初期から社内基準値を超える有望候補材を検出し、BOで無作為抽出よりも 39 倍も効率良く候補を絞り込めていることを確認できました。これはスクリーニングと各探索アルゴリズムによる選定の相乗効果によるものと考えられます。
今回のSi基板表面に対する低吸着エネルギー分子のデータ駆動型探索フローを用いることで、これまでに実験科学者が選定した材料以外の候補材を発見し、新材料を提案することが期待されます。
計算条件
| 項目 | 詳細 |
| 原子数 | 500原子 ~ |
| 元素種 | H , B , O , C , N , F , Si ,P ,S など |
| PFP | Ver 5.0.0 , PBE+D3 mode |
参考文献他
Reference
[1] Nanjo, S., et al., npj Comput Mater 11, 16 (2025).
[2] Takuya, Akiba., et al., Optuna: A Next-generation Hyperparameter Optimization Framework. 2019
[3] Slab + mol energy — Atomistic Simulation Tutorial
[4] RDKit: Open-source cheminformatics. https://www.rdkit.org
[5] Kusaba, M., et al.,Phys. Rev. B 108: 134107 (2023)
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本事例の公開日:2026.05.15