ラボオートメーションとは? 材料開発における実験自動化の考え方と最新動向

太田 真琴 太田 真琴

ラボオートメーション(ラボラトリーオートメーション)とは、ロボットやソフトウェアを組み合わせて、実験・研究のプロセスを自動化・自律化していく取り組みです。その適用範囲は広く、特にライフサイエンスや製薬分野では多くの導入事例があります。一方、材料開発の現場でも近年、装置連携やデータ管理の統合、さらにはAIによる探索の自律化が現実のテーマになりつつあります。

材料開発では、探索すべき組成・構造・プロセス条件の組み合わせが膨大です。そのため、実験作業の自動化だけでなく、「次にどの候補を試すか」という判断そのものを効率化・自動化すること——つまり「自律化」が、開発期間の短縮に直結します。本記事では、材料開発の視点からラボオートメーションの全体像を整理し、実験作業の自動化からAIによる自律的な材料探索までをくわしく解説します。

ラボオートメーションの基本── 実験作業の「自動化」

ラボオートメーションの基本は、実験室での反復作業(搬送・前処理・溶液調製・測定・データ取得など)をロボットや自動化装置に代行させることで、研究開発の効率や再現性を向上させることです。

こうした作業の自動化は、ライフサイエンス・製薬分野で先行して発展してきました。例えば、検体や試薬を正確な量で小分けにする「液体ハンドリング(ピペッティング)」や、数千〜数万個の化合物候補を短時間で評価する「ハイスループットスクリーニング」などは、ラボオートメーションの代表的な用途です。

ラボオートメーションの市場規模は、2025年時点で約73億米ドルと推定され、2030年には約100億米ドル規模に達するという見通しも示されています[1]。今後も市場の拡大が見込まれており、研究機関や企業での導入はさらに広がっていくとみられます。

近年では、材料分野でもラボオートメーションによる自動化が広がっています。例えば、成膜装置とX線回折(XRD)装置の間を自動搬送でつなぐことで、合成から評価までの一連の工程を効率化する取り組みなどが進められています。また、ロボットや自動化装置で得られたデータを比較・再利用できる形で残すため、電子実験ノート(ELN: Electronic Laboratory Notebook)やラボ情報管理システム(LIMS: Laboratory Information Management System)などのデータ管理システムも、ラボオートメーションの構成要素として合わせて設計することが重要です。

ラボオートメーションにより自動化できること

材料分野では、ラボオートメーションにより以下のような工程を自動化できます。また、各工程の自動化装置を組み合わせて、一連の複数の工程を自動化することも可能です。

  • 合成:溶液の調製・混合や、自動炉による粉末材料の焼成、スパッタ装置による薄膜の成膜など、材料を作る工程を自動化する
  • 試料の搬送:合成装置から測定装置への試料の受け渡しを、ロボットアームや搬送レールで自動化する
  • 測定・分析:XRD装置や分光装置、電気化学測定装置などによる物性評価を自動で実行する
  • データ取得・記録:各装置の測定結果をLIMSやELNへ自動で登録し、記録を一元管理する

ラボオートメーションによる自動化のメリット

実験作業の自動化により、材料開発の現場では主に以下のようなメリットが期待できます。

  • 実験速度の向上:24時間連続稼働や並列処理により、単位時間あたりの試行回数を大幅に増やすことができる
  • 再現性・正確性の向上:手技のばらつきを排除し、同一条件での実験を安定して反復できる。得られたデータを自動で記録することで、記録漏れや入力ミスの防止にもつながる
  • 属人性の低減:特定の研究者の技量に依存しない運用が可能となり、人事異動や引き継ぎによる影響を抑えられる
  • 作業者の安全確保:危険な試薬の取り扱いや高温環境での反復作業をロボットに委ねることで、作業者のリスクを低減して安全を確保する

ラボオートメーションの進化── 「自動化」から「自律化」へ

これまで述べてきたように、ラボオートメーションにより実験作業を自動化すれば、個々の作業の速度や再現性は向上します。しかし材料開発の現場では、探索空間が広大であるうえに1回の実験に長い時間を要することが多いため、得られた結果をどう解釈し、次にどの条件や材料候補を試すかが開発スピード全体を大きく左右します。

そこで求められるのが、この判断自体をAIなどのソフトウェアに委ねる「自律化」です[2]。これまで説明してきた実験作業の「自動化」と、次に何を試すかを判断する「自律化」を組み合わせることで、材料開発の探索サイクル(仮説立案→候補選択→検証→結果解釈→次の仮説立案→・・・)を人間の関与を減らしながら回し続けることが可能となります。このような、実験の実行から判断までをシステムが一貫して担うサイクルを「閉ループ(クローズドループ)」と呼びます。

ラボオートメーションのトレンドは、このように「自動化→自律化」の方向に進化しつつあります[2]。

図:材料探索の閉ループ(クローズドループ)。従来は研究者が担っていた探索サイクルの各工程を、自動化装置と解析・判断を担うソフトウェア(AIなど)が分担して回す仕組み。合成・測定・データ記録といった実験作業(図中の「検証」工程)は自動化装置が担い、得られたデータの解析、結果解釈、次に試す条件や候補の選定(「結果解釈」「仮説立案」「候補選択」工程)は解析・判断用のソフトウェアが担う。このサイクルが連結されることで、人間の関与を減らしながら探索を進めることができる。

ラボオートメーションにおける「自律化」を支える技術

先ほど説明した判断・解析用ソフトウェアによる自律的な判断を支えるための代表的な技術が、「機械学習」と「材料シミュレーション」です。以下では、これらの技術がラボオートメーションの中でどのような役割を果たすかを解説します。

機械学習── 少ない実験回数で有望な候補を見つける

機械学習とは、データのパターンや規則性をコンピュータに学習させ、予測や判断に活用する技術の総称です。材料分野では、この機械学習を活用して材料探索を効率化する「マテリアルズ・インフォマティクス(MI: Materials Informatics)」と呼ばれる取り組みが広がっています。

MIの中には、次にどの条件を評価すべきか選びながら探索を進める「適応的実験計画法」と呼ばれる手法があります。適応的実験計画法では、これまでに得られた実験結果をもとに次の実験候補を選び、新たに得られた実験データでモデルを更新しながら探索を進めていきます。こうしたモデルの更新を繰り返すことで、限られた実験回数でも効率よく有望な候補へ近づくことができます。

適応的実験計画法の代表的な手法の一つが「ベイズ最適化」です[3]。ベイズ最適化の特徴は、これまでの実験データから得られた予測結果とその不確実性(標準偏差など)を考慮して次の実験候補を選定する点です。「有望そうな候補」を優先しつつ、まだ十分に調べられていない候補も適度に探索対象にすることで、探索の偏りを抑えることができます。

MIやベイズ最適化についてくわしく知りたい方は、弊社ブログ記事「マテリアルズインフォマティクス(MI)とは?基本的な考え方から最新の研究までをわかりやすく解説」もあわせてご覧ください。

材料シミュレーション── 候補を絞り込み、探索の効率を高める

材料シミュレーションは、材料の構造や組成を入力として、物理法則に基づいてその物性や挙動を計算する手法の総称です。対象とするスケールに応じて、原子・分子レベルのシミュレーション(DFT計算、分子動力学法など)からメソスケール、マクロスケールのシミュレーションまで、さまざまな手法があります[4]。たとえば、原子・分子レベルのシミュレーションでは、定義した構造の安定性や原子の動き、化学反応の経路などを計算できます。実験では直接観察しにくい吸着挙動、拡散特性、界面の安定性なども推定が可能です[5]。

(原子・分子レベルの材料シミュレーション手法としてよく用いられるのが、密度汎関数理論(DFT)と分子動力学法です。それぞれについてくわしく知りたい方は、弊社ブログ記事「【初心者向け】密度汎関数理論(DFT)とは | 基礎編」「分子動力学シミュレーション入門」も参照ください)

ラボオートメーションにおける材料シミュレーションの活用法は、大きく次の2パターンに分けられます。

パターンA:閉ループの「前」に材料シミュレーションを実施(候補を事前に絞り込む)

材料開発では、検討すべき候補がきわめて多くなることも珍しくありません。これらの候補を全て閉ループで探索しようとすると、ベイズ最適化などを用いて効率化しても、目的の性能を持つ材料にたどり着くまでに多くの時間とコストがかかります。

そこで有効なのが、閉ループを回す前に、材料シミュレーションである程度候補を絞り込んでおく方法です。事前に候補材料の安定性や物性を計算によって評価し、有望な候補だけを閉ループでの探索対象とすることで、探索効率を向上させることができます。

パターンB:閉ループの「中」で材料シミュレーションを実施(探索中の判断を支える)

もう一つの活用法は、材料シミュレーションを閉ループの中に組み込むパターンです。例えば、適応的実験計画法によって次に評価すべき候補や条件が提案されたときに、材料シミュレーションでその妥当性や有望性を確認します。続いて、その結果を踏まえて、実際にその候補を合成・評価するかを決定します。これにより、無駄な実験を減らして探索を効率化させることができます。

ただしこの方法では、時間のかかる材料シミュレーションを毎回実行すると、候補評価の工程が律速となり、閉ループ全体のスピードが落ちることがあります。そのため、DFTのような高コストな手法を毎回使うのではなく、より高速な手法や、あらかじめ計算結果を学習した機械学習モデルを用いるなどの工夫が必要です[6]。

ラボオートメーションの事例

ここまで説明してきた「自動化」と「自律化」を実現したラボオートメーションの事例を紹介します。

ロボットとベイズ最適化で合成条件を自律探索する事例

東京大学の一杉太郎教授らのグループは、複数の実験装置を相互接続し、ロボットによる自動化とベイズ最適化による判断とを組み合わせることで、電池材料として知られるLiCoO₂薄膜の合成条件を自律的に最適化する「デジタルラボラトリー」を構築しました[7]。

このシステムでは、スパッタ成膜装置で自動合成された薄膜の結晶構造を、XRD装置が自動で測定します。その後、得られたXRDパターンからLiCoO₂に特徴的な回折ピークの強度比が算出され、その結果をもとにベイズ最適化が次の合成条件を提案して、新たな条件で薄膜合成が行われます。一杉教授らは、このサイクルを人手を介さずに繰り返すことで、高品質なLiCoO₂薄膜の合成条件を自律的に発見することに成功しました。

また、この研究ではデータの標準化にも取り組んでいます。各実験装置による測定データはMaiML(JIS K 0200)という標準フォーマットで出力され、クラウド上のデータベースに集約されます。これにより、異なる装置のデータを統一的に管理・比較できる仕組みが実現されています。

熱力学計算を閉ループに組み込み、相図を自律探索する事例

材料シミュレーションを閉ループの中に組み込むと、相図や相境界を効率よく把握することも可能になります。その一例が、University of MarylandとNIST(米国国立標準技術研究所)の研究グループが報告した自律型材料探索エンジン「AMASE(Autonomous Materials Science and Engineering)」です[8]。

AMASEでは、材料シミュレーションとして、熱力学モデルに基づいて相図を計算する「CALPHAD」を用いています。まず、Sn-Bi合金系の薄膜試料に対してXRD測定を実施し、どの組成・温度でどの相が現れているかを調べます。続いて、その結果をもとにAMASEのソフトウェアがCALPHADを用いて相図予測を更新し、適応的実験計画法によって次にどの組成・温度でXRD測定を実施すべきかを自動で判断します。さらに、その判断に従って次の測定を行い、得られた結果を再び相図計算に反映することで、相境界を絞り込んでいきます。

研究グループは、このサイクルを人手を介さずに繰り返すことで、Sn-Bi 系の共晶相図を効率よく決定できることを示しました。

ラボオートメーションを支えるAI活用の原子シミュレータ「Matlantis」

本記事でラボオートメーションの「自律化」を支える技術として紹介した「材料シミュレーション」は、原子レベルで高精度な計算が可能である一方、計算時間の長さや計算コストの高さが課題になりがちです。そのため、探索の初期段階で多数の候補を比較したり、閉ループの途中で次に試す候補をその都度評価したりする用途では、使いにくさが生じることもあります。

こうした課題を解決する新しいアプローチとして注目されているのが、弊社が提供する「Matlantis」です。MatlantisはAIを活用することで、高精度な原子レベルシミュレーションを従来より大幅に高速に実行できるクラウドサービスです。計算を短時間で行えるようになることで、実験前には多くの候補を比較して有望なものを絞り込みやすくなり、閉ループの途中でも、次に試す候補を計算で見極めながら探索を進めやすくなります。

Matlantisの具体的な活用方法や導入効果については、お客様事例ページをご覧ください。

まとめ

本記事では、材料開発におけるラボオートメーションについて、実験作業の自動化や意思決定の自律化、さらには自律化における機械学習や材料シミュレーションの活用までを解説しました。

材料開発では、「次に何を試すか」という判断が開発スピードを大きく左右します。ラボオートメーションを検討する際には、実験作業の自動化だけでなく、機械学習や材料シミュレーションも活用しながら、自社の探索プロセス全体をどう効率化できるかという視点で捉えることが大切です。

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レポート①:
マテリアル分野における計算化学の活用動向に関する包括的調査 ~研究開発戦略の策定に向けた最新トレンド分析~

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レポート②:
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材料研究開発の現場におけるAI駆動シミュレーションの活用実態を、米国の材料科学・工学分野の専門家300人への調査データをもとに分析したレポートです。計算リソースのボトルネックによる影響や、スピード・精度・信頼性のバランスを取る方法など、研究開発DXを推進する上でのリアルな課題と対策を把握できます。

【参考文献】

[1] 360iResearch「Laboratory Automation Market – Global Forecast 2026-2032」: https://www.360iresearch.com/library/intelligence/laboratory-automation

[2] N. J. Szymanski et al., “An autonomous laboratory for the accelerated synthesis of inorganic materials” Nature (2023).

[3] Matlantisブログ「マテリアルズインフォマティクス(MI)とは?基本的な考え方から最新の研究までをわかりやすく解説」: https://matlantis.com/ja/resources/blog/what-is-materials-informatics/

[4] M. O. Steinhauser and S. Hiermaier, “A Review of Computational Methods in Materials Science: Examples from Shock-Wave and Polymer Physics” Int. J. Mol. Sci. (2009).

[5] Matlantisブログ「【初心者向け】密度汎関数理論(DFT)とは | 基礎編」: https://matlantis.com/ja/resources/blog/dft/

[6] L. Kavalsky et al., “By how much can closed-loop frameworks accelerate computational materials discovery?” Digital Discovery (2023).

[7] K. Nishio et al., “A digital laboratory with a modular measurement system and standardized data format” Digital Discovery (2025).

[8] H. Liang et al., “Real-time experiment-theory closed-loop interaction for autonomous materials science” Sci. Adv. (2025).

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