材料開発の現場では、「なぜこの材料はイオンが拡散しやすいのか」「界面付近で何が起きているのか」「欠陥がどのように特性に影響するのか」といった原子レベルの問いに直面することがあります。こうした問いに答えるための有力な手段が、原子や分子の動きを計算で「見える化」する「分子動力学(MD: Molecular Dynamics)シミュレーション」です。
MDシミュレーションの実施にはソフトウェアが必要ですが、MDシミュレーションソフトには多くの種類があり、得意な対象系や計算速度、使いやすさ、ライセンス形態もさまざまです。そのため、「何をどう選べばよいかわからない」という方も多いのではないでしょうか。
本記事では、MDシミュレーションソフトの導入を検討している材料分野の研究者の方々に向けて、ソフト選定の前に押さえておきたい基礎知識、選定時に見るべき6つのポイント、代表的な14種類のMDシミュレーションソフトの概要を表形式でわかりやすく解説します。本記事を読めば、自社の研究開発テーマに合うソフトを見極めるヒントが得られるはずです。
MDシミュレーションとは?|ソフト選択のために必要な基礎知識

MDシミュレーションソフトの選び方を解説する前に、ソフト選択のために必要なMDシミュレーションの基礎知識を解説します。解説が不要な方は、「MDシミュレーションソフトを選ぶ際のポイント」にお進みください。
MDシミュレーションの基本的な考え方
MDシミュレーションとは、物質を構成する原子一つ一つに対してニュートンの運動方程式を解き、原子がどのように動くかを時間軸に沿って追跡する計算手法です。具体的には、原子に働く「力」を計算し、その力に従って原子の位置と速度を少しずつ更新する処理を繰り返します。これにより、各時刻における原子の位置や速度、エネルギーなどを得ることができます[1]。
MDシミュレーションでできること・できないこと
MDシミュレーションの強みは、「動き」や「変化のしかた」を原子・分子レベルで捉えられる点です。例えば以下のような、実験だけでは見えにくい現象を可視化・解析する上で、MDシミュレーションは非常に有用です。
- 拡散:ある材料の中でイオンや分子がどのように移動するのか
- 界面挙動:異なる材料が接する界面付近で、原子がどのような配列・挙動を示すか
- 欠陥近傍の挙動:結晶中の欠陥(空孔、格子間原子など)が材料特性にどう影響するか
- 吸着・脱離:表面に分子がどのように吸着し、どのように脱離するか
一方、MDシミュレーションでは、原子の素早い動きを取りこぼさないように、1〜数フェムト秒(10⁻¹⁵秒)程度のごく短い時間刻みで計算を進める必要があります。時間刻みを大きくすると、原子の動きを正しく追えなくなり、シミュレーション全体の精度が大きく落ちてしまうためです。そのため、扱える総時間スケールには現実的な限界があります。 例えば、材料の長期劣化のように秒〜年単位でゆっくり進行する現象や、結晶核形成のようにまれにしか起こらない現象は、通常のMDシミュレーションで直接観察するのが難しいとされています[2]。
MDシミュレーションソフトにおける力の計算方法3つ
先ほど「MDシミュレーションの基本的な考え方」でも解説したように、MDシミュレーションでは原子に働く「力」を各ステップごとに計算する必要があります。実は、この力の計算はMDシミュレーション全体の計算時間の大半を占める重要な処理であり、どの方法で力を求めるかによって、計算の精度や速度、扱える系のスケールが大きく変わります[1]。
力を求める代表的な方法の一つは、原子配置とエネルギーの関係を表す関数を人が経験に基づいてあらかじめ設計しておく方法です。この関数は「原子がどのような配置のときにどの程度のポテンシャルエネルギーを持つか」を表しており、関数の傾き(原子座標に対する微分)から各原子に働く力を計算できます。このような関数は、「ポテンシャル」や「力場」とよばれます。
一方、こうした関数を人が事前に設計するのではなく、各ステップごとに原子の電子状態を計算し、その結果から原子に働く力を求める方法もあります。
こうした力の計算方法の違いにより、MDシミュレーションは大きく以下の3手法に分類されます。
古典MD(力の計算方法:古典力場)
特定の材料や分子系に最適化された力場を用いて力を計算する方法です。シミュレーションの各ステップで電子状態を考慮せず、経験的に設計された力場だけで力を求めることから、この手法で使用する力場は特に「古典」力場とよばれます。計算速度が非常に速く、条件によっては数十万〜数百万原子の大きな系に対して、マイクロ秒(10-6秒)オーダーの長時間シミュレーションを実施することも可能です[1]。『古典』とよばれますが、現在も材料系・生体系を中心に最も広く使われている手法です。
第一原理MD(力の計算方法:第一原理計算)
3つの方法の中で唯一、事前に決められたポテンシャル関数を使わず、各ステップで電子状態から直接力を求めるのがこの「第一原理MD」です。各ステップで第一原理計算(DFT計算など)を実行し、電子状態を元に原子に働く力を求めます。電子状態を考慮できるため、化学反応や結合の生成・切断などを原理的に扱いやすい点がメリットです[3]。一方、第一原理計算の計算コストが非常に大きいため、一般的に扱える系は数百原子程度、時間スケールはピコ秒(10-12秒)オーダーに限られます[1]。
(DFTについてくわしく知りたい方は、弊社ブログ記事「【初心者向け】密度汎関数理論(DFT)とは | 基礎編」をご覧ください)
機械学習ポテンシャル(MLIP)によるMD(力の計算方法:MLIP)
原子配置とエネルギー・力との関係を学習した機械学習モデルを使って、原子に働く力を予測する方法です。このような機械学習モデルは「機械学習ポテンシャル(MLIP: Machine Learning Interatomic Potential)」あるいは「機械学習力場」とよばれます。本記事ではこれ以降、MLIPを用いたMDシミュレーションを「MLIP-MD」と表記します。
機械学習モデルの学習には、主にDFTなどの第一原理計算で得られたデータを用います。そのため、先ほど説明した第一原理MDのように毎回第一原理計算をしなくても、それに近い精度で、かつより高速に力を求めることが可能です。最近では、従来の第一原理計算では扱えなかった、数万原子・数十ナノ秒(ナノ秒:10-9秒)のシミュレーションも実用的になっています[2]。
一方で、MLIPの精度は学習データの範囲や質に左右されるため、学習データに含まれない構造や条件では予測精度が下がる可能性があります。そのため、対象とする材料系や現象に対応したMLIPを選択することが重要です[4]。
(MDシミュレーションやMLIPについてくわしく知りたい方は、弊社ブログ記事「分子動力学シミュレーション入門」「機械学習ポテンシャル入門: 材料開発を加速するシミュレーション技術」もあわせてご覧ください)
MDシミュレーションソフトを選ぶ際のポイント

MDシミュレーションソフトを選ぶ際は、ソフト名や知名度だけで判断するのではなく、自社の研究テーマや導入環境から逆算して考えることが重要です。ここでは、MDシミュレーションソフトの選定において検討すべき6つのポイントを紹介します。
ポイント1: 興味のある材料系・現象に対応しているか
最初に確認すべきは、自分の研究対象に対応した力場やポテンシャルがそのソフトで利用できるかどうかです。一般的に、ある力場やポテンシャルは特定の材料系(金属、半導体、高分子など)を対象として作られており、異なる材料系にそのまま流用することはできません。MDシミュレーションソフトによって搭載されている力場の種類は異なるため、事前の確認が重要です。
あわせて、見たい物性や現象を計算するための手法がソフトに実装されているかもポイントです。例えば、拡散係数の算出、界面構造の解析、材料強度の評価など、調べたい内容に対応した解析機能がソフトに備わっていれば、自分で解析スクリプトを一から作成する手間を省けます。
ポイント2: 扱いたい系のサイズや時間スケールに対応できるか
自分が扱いたい系のサイズ(原子数)と、見たい時間スケールに対して、現実的な計算時間で結果が得られるかも重要です。これには、「力の計算方法」と「ソフト側の高速化への対応状況」の両方が関係します。
「MDシミュレーションソフトにおける力の計算方法3つ」で述べたように、古典MD・第一原理MD・MLIP-MDでは、それぞれ扱える系のサイズと時間スケールが異なります。そのため、まず「自分が見たい現象にはどの程度の系サイズ・時間が必要か」を見積もり、それに対応できる力の計算方法を選んだうえで、その手法が使えるソフトを選ぶとよいでしょう。
さらに、同じ力の計算方法であっても、ソフトによって計算速度は変わります。たとえば、大規模な系の計算では、GPUに対応しているソフトや並列計算が実行できるソフトの方が、より高速に計算を実行できます。
ポイント3: 拡張性に優れているか
拡張性とは、ユーザーがソフトに新しい機能を追加したり、既存の機能をカスタマイズしたりできる自由度のことです。例えば、古典MDソフトの場合は「新しい力場・ポテンシャルを追加できるか」、第一原理MDソフトの場合は「新しい電子状態計算の手法や解析機能を追加できるか」といった点が重要です。
一般に拡張性が高いのは、オープンソースのMDシミュレーションソフトです。これらは、ソースコードが公開されているため機能を追加・改変しやすく、コミュニティによって追加機能のプラグインや拡張パッケージが活発に開発されているソフトも多く存在します。一方、商用ソフトの中にも、外部の可視化・解析ツールと連携したり、計算手順をカスタマイズできるものがあります。
ポイント4: MLIPへの対応状況
近年、MLIPの活用は急速に広がっており、既存の古典MDソフトや第一原理MDソフトでもMLIPへの対応が進んでいます。この「対応」の意味合いはソフトによって異なり、第一原理MDソフトの場合は「自ソフトで計算したDFTデータをMLIPの学習に使えるフォーマットで書き出せること」、古典MDソフトの場合は「外部で学習させたMLIPを自ソフトに組み込んでMDを実行できること」を指します。
現在では、第一原理MDソフトで実施したDFT計算の結果を用いて外部のMLIPを学習させ、その学習済みMLIPを古典MDソフトに組み込んでMLIP-MDを実行するワークフローも一般的になりつつあります。また、内部でDFT計算からMLIPの学習、MLIP-MDの実行までを一気通貫で実施できるMLIP内蔵ソフトも出てきています。
ポイント5: 導入しやすく、社内で継続利用しやすいか
ソフトの技術的な側面だけでなく、導入・運用面も確認する必要があります。
まず導入時には、ソフトのライセンス形態(オープンソースか商用か)や購入費用、必要な計算環境を総合的に検討しましょう。例えば、無料ソフトでも、大規模な計算を実施する場合は高性能なCPUやGPU、大容量のストレージが必要となり、トータルの導入費用が想定より高くなる場合もあります。自社で計算環境を準備できない場合は、クラウド型で環境構築の負荷が低いソフトを選択するのも手です。
導入後に社内で継続的に使い続けるためには、ドキュメントや学習リソースの充実度も重要です。オープンソースのMDシミュレーションソフトにはユーザーコミュニティが運営するフォーラムやチュートリアルが充実しているものが多く、商用ソフトではベンダーによるサポートやトレーニングを受けられます。一般的に、ユーザー数が多く利用実績が豊富なソフトほど情報が多いため、困った際の解決策を見つけやすくなります。
ポイント6: ITや計算化学の専門知識がどの程度必要か
ITや計算化学にくわしくない場合は、ソフトの使用時にどの程度の専門知識が求められるかも確認しましょう。
GUIが充実したソフトであれば、初期構造の構築からMDシミュレーションの実行、結果の解析までをGUI上で視覚的に実施できるため、高度なITスキルがなくても比較的スムーズに使い始められます。一方、GUIを持たないソフトは、コマンドラインやPythonスクリプトでの操作が前提となるため、従来はLinuxやプログラミングなどの知識がある程度必要でした。ただし近年は、ChatGPTやClaudeなどの大規模言語モデル(LLM)やコーディングエージェントの登場により、スクリプト操作のハードルが大きく下がっています。むしろ、AIエージェントとの親和性という観点では、GUI操作よりもスクリプトで操作できるソフトの方が連携しやすいといえます。今後ソフトを選ぶ際は、LLMやコーディングエージェントとの連携性も重要な要素として考慮するとよいでしょう。
求められる計算化学の知識も、ソフトによって異なります。例えば、内蔵されている力場を選択するだけですぐにMDシミュレーションを始められるソフトもあれば、ユーザー自身で力場のパラメータを細かく調整しなければならないソフトも存在します。また、シミュレーションで使用する初期構造を作成する際に、表面・界面モデルの作成や欠陥の導入、分子の配置などをどこまで支援してくれるかも重要なポイントです。
【表で比較】代表的なMDシミュレーションソフト14選
以下では、前セクションで紹介した選定ポイントに基づき、代表的なMDシミュレーションソフト14種類を表形式で比較しています。今回は材料系向けのソフトに加えて、名前を目にする機会が多い生体分子向けのソフトも参考までに掲載しています。自社で導入できそうなMDシミュレーションソフトはどれか、ぜひチェックしてみてください。
(※各ソフトの詳細や最新情報は、開発元の公式サイトをご確認ください)
| ソフトウェア名 | 使える手法 | 主な対象系 | 主な特徴 | GUI | MLIP対応状況 | ライセンス |
|---|---|---|---|---|---|---|
| LAMMPS | 古典MD | 無機・金属、高分子・ソフトマター | ・並列計算に対応しており、大規模系に強い ・新しい力場・ポテンシャルを追加しやすい(ただしC++などのプログラミング知識が必要) |
なし(コマンドライン中心) | 対応(外部MLIPの組込みが可能) | 無償(オープンソース) |
| OpenMM | 古典MD | 生体分子、高分子・ソフトマター | ・GPUを活用した高速計算に強い ・新しい力場・ポテンシャルを追加しやすい(ただしPythonなどのプログラミング知識が必要) ・既存のエコシステムとの連携に強み |
なし(Pythonコードで実行) | 対応(外部MLIPの組込みが可能) | 無償(オープンソース) |
| GROMACS | 古典MD | 生体分子、高分子・ソフトマター | ・コードがよくチューニングされておりCPU/GPUともに計算速度に優れる ・主に生体分子向けだが、高分子などの材料系にも適用可能 |
なし(コマンドライン中心) | 一部対応(一部のMLIPを組み込み可能) | 無償(オープンソース) |
| AMBER | 古典MD | 生体分子 | ・生体分子向け力場群としても知られる ・GPUを用いた高速なMDシミュレーションにも対応 ・モデリング・解析などのツール群(AmberTools)が充実 |
なし(コマンドライン中心) | 限定的(古典力場とMLIPの併用例あり) | 一部無償(主要機能は有償) |
| NAMD | 古典MD | 生体分子 | ・並列計算に対応しており、大規模な生体系に強い | なし(コマンドライン中心。同じ開発元による可視化ソフト「VMD」も使用可能) | 非対応 | 無償(非商用利用のみ。商用利用には有償ライセンスが必要) |
| GENESIS | 古典MD | 生体分子、高分子・ソフトマター | ・理化学研究所を中心に開発された国産ソフト ・並列計算に対応しており、大規模系に強い |
なし(コマンドライン中心) | 限定的 | 無償(オープンソース) |
| VASP | 第一原理MD | 無機・金属、表面・界面 | ・固体材料や表面・界面の第一原理計算で広く用いられる | なし(コマンドライン中心) | 対応(ソフト内でMLIPの学習・利用が可能) | 有償 |
| Quantum ESPRESSO | 第一原理MD | 無機・金属、表面・界面 | ・固体材料や表面・界面の第一原理計算で広く用いられる | なし(コマンドライン中心) | 一部対応(MLIP学習用のDFTデータ作成に利用可能) | 無償(オープンソース) |
| CP2K | 第一原理MD | 無機・金属、表面・界面、液相、分子系 | ・液相、表面・界面、分子系などの計算でよく用いられる ・古典MDと第一原理MDの併用も可能 |
なし(コマンドライン中心) | 対応(MLIP学習用のDFTデータ作成、一部MLIPの組み込み) | 無償(オープンソース) |
| SIESTA | 第一原理MD | 無機・金属、表面・界面、ナノ構造、分子系 | ・比較的大規模な系に使用される | なし(コマンドライン中心) | 一部対応(MLIP学習用のDFTデータ作成に利用可能) | 無償(オープンソース) |
| OpenMX | 第一原理MD | 無機・金属、表面・界面、ナノ構造 | ・東京大学の研究グループを中心に開発された国産ソフト ・ナノ構造や比較的大規模な系に使用される |
なし(コマンドライン中心) | 一部対応(MLIP学習用のDFTデータ作成に利用可能) | 無償(オープンソース) |
| Materials Studio | 古典MD、第一原理MD | 高分子・ソフトマター、無機・金属、表面・界面 | ・GUIで構造作成から計算、解析まで実施しやすい商用の統合環境 ・古典MDや第一原理MDなど、複数の計算手法に対応 |
あり | 一部対応 | 有償 |
| J-OCTA | 古典MD、粗視化MD(複数原子をまとめて扱う手法) | 高分子・ソフトマター、複合材料 | ・GUIで構造作成から計算、解析まで実施しやすい商用の統合環境 ・粗視化MDを用いた高分子・ソフトマターの解析に強い |
あり | 一部対応(ASAP(Atomistic Simulation Advanced Platform)との連携により対応) | 有償 |
| Desmond | 古典MD | 生体分子(創薬用途) | ・GPUを活用した高速計算に強い ・タンパク質–リガンド複合体などの生体分子MDでよく用いられる |
あり(開発元が提供するGUI統合環境「Maestro」を利用) | 独自MLIP(MPNICE)に対応 | 有償 |
・「拡張性」について
古典MDソフトの中では、LAMMPSとOpenMMが新しい力場やポテンシャルの開発に特に適しています。LAMMPSはプログラミング(C++)による機能追加がしやすく、OpenMMはポテンシャルを定義すれば力を自動で計算する仕組みを備えています。いずれのソフトも、新しい力場やポテンシャルをいち早く試したい研究者に広く利用されています。
第一原理MDソフトでは、Quantum ESPRESSOは各種機能をモジュールとして追加しやすい設計のため、コミュニティによる開発・機能追加が活発です。VASPはソフト本体と組み合わせられる外部ツールやプラグインが豊富ですが、オープンソースではないためソフト本体の改変には制約があります。
・「MLIP対応状況」について
MDの実行環境としては、ASE(Atomic Simulation Environment)とよばれるPythonベースのフレームワークを共通のインターフェースとして使い、さまざまなMLIPを手軽によび出してMDを実行する方法が広く普及しています。一方、LAMMPSやOpenMMはMLIPをソフト内部に直接組み込む仕組みも整備しており、ASEを介さずにMLIP-MDを実行することも可能です。また、GROMACSなども、こうしたMLIPの組み込みに対応しつつあります。
電子構造計算・第一原理MDが可能なソフトであるVASPはMLIPを内蔵しており、シミュレーション中にその場でMLIPを学習・更新しながらMDを実行できます。Quantum ESPRESSO、SIESTA、OpenMXなどは、外部ツールを介して自ソフトのDFTデータを元にMLIPを学習させることが可能です。
幅広い対象系でMLIP-MDを手軽に実行できる原子レベルシミュレーションプラットフォーム「Matlantis」
ここまで見てきたように、MLIPはMDシミュレーションの精度と速度の両立を目指す技術として近年注目されています。しかし、従来のMLIP-MDには以下のような課題も存在します。
- 対象系ごとに専用のMLIPを用意しなければならない場合が多い
- MLIPの学習に必要な大量のDFTデータを自分たちで準備する必要がある
- MLIPを第一原理計算ソフトや古典MDソフトと連携させるためのワークフロー構築に、ITや計算化学の専門知識とリソースが必要となる
こうした課題を解決する新しいアプローチとして注目されているのが、弊社が提供する「Matlantis」です。
Matlantisは、触媒・電池・半導体・高分子・合金などの幅広い材料系に対応できる汎用MLIP「Matlantis PFP」を内蔵した、クラウド型のシミュレーション環境です。ユーザー自身が対象系ごとに専用のMLIPを用意する必要がなく、目的の材料系でMDシミュレーションを始めやすい点が特徴です。DFTデータの準備やMLIPの学習、他ソフトとの連携といった工程も不要で、MLIP-MDを開始するまでのワークフローを大幅に簡略化できます。MDシミュレーション自体は、ASEやLAMMPSといった広く使われているMDフレームワークからPFPをよび出すかたちで実行できるため、これらの既存ツールに慣れたユーザーがそのまま移行しやすい点もメリットです。さらに、計算はクラウド環境で完結するため、専用の計算設備なしにブラウザから利用できます。また2026年5月には、Claude CodeやCodexなどのコーディングエージェントとMatlantisを連携させる機能も追加され、自然言語の指示からMatlantis上でシミュレーションコードを自動生成できるようになりました(プレスリリース)。
Matlantisについてくわしく知りたい方は、ぜひ以下もご覧ください。
- Matlantisの具体的な活用方法や導入効果を知りたい方:お客様事例ページ
- Matlantisの概要や特徴などを知りたい方:製品資料のダウンロードページ
まとめ
本記事では、材料開発におけるMDシミュレーションソフトの選び方について、ソフト選定の前に押さえておきたい基礎知識、選定時に見るべき6つのポイント、代表的な14種類のソフトの特徴について解説しました。
MDシミュレーションソフトを選ぶ際は、「有名なソフト」ではなく、自分の研究テーマ(材料系・現象)や必要なスケール、導入・運用環境に合ったソフトを選ぶことが大切です。本記事で紹介したソフトの選定ポイントや比較表を、ぜひソフト選びの参考にしてみてください。
【参考文献】
[1] Matlantisブログ「分子動力学シミュレーション入門」: https://matlantis.com/ja/resources/blog/md-intro/