LightPFPを用いたGaN/AlNヘテロエピタキシャル薄膜のクラック伝播の大規模分子動力学シミュレーション

テーマ概要

図1.GaN/AlN/基板ヘテロ構造における降温によるクラック発生の概念図

次世代パワーエレクトロニクス、通信デバイス、およびUV LEDにおいて、AlN基板上のGaN薄膜は重要な材料系である。

しかし、デバイス作製における根本的な課題の一つであるエピタキシャル薄膜に発生するクラック(図1)については、「クラックの起点はどこか」「AlN基板の面方位は影響するのか」という点が十分に理解されていない。

これは、既存のシミュレーション手法では十分な信頼性をもって解明できなかったためである。例えば、古典Stillinger-Weber(SW)ポテンシャルは計算が高速である一方、特に界面における原子間相互作用の精度が低い。これに対しPFPは精度の面で大幅な改善をもたらすものの、数万原子規模の系に限定される。

クラック現象を適切にシミュレートするには、核生成だけでなく伝播も再現できる、より大規模な系が必要である。そこで本研究では、PFPで生成したデータとアクティブラーニングを用いて、GaN/AlN系向けのLightPFP(LPFP)モデルを開発した。

これにより、PFPと比較して大規模計算が可能となり、数十万原子規模のシミュレーションを実現した。さらに、LPFPが工学的に意義のあるスケールにおいてPFP相当のクラック核生成・伝播挙動を再現できることを本研究で実証した。また、2種類のAlN基板面方位を比較検討した結果、両者が本質的に異なるクラック発生機構を示すことも明らかになった。

この面方位依存性は、デバイスに使用されるGaN薄膜におけるクラック核生成に直接的な影響を与えると考えられる。

図1.GaN/AlN/基板ヘテロ構造における降温によるクラック発生の概念図

計算モデルと計算方法

AlNの面方位のうち、極性c面(0001)と非極性a面(11-20)を対象にし(図2) [1]、系サイズ1×1×1 (Supercell)、2×2×1、3×3×1、5×5×1の4条件に対し(図3) 、SW[2]、PFP、LPFPの3手法を比較した(ただしPFPについては原子数の制約上1×1×1のみである)。

LPFPモデルの学習にはPFP(v8.0.0、r2scan)により生成したデータを用いた。初期データセットは、GaNおよびAlNのウルツ鉱型バルク構造とGaN/AlN界面構造から得られた約300構造で構成し、さらにアクティブラーニングによって約200構造を追加した。境界条件はx・y方向に周期境界条件を適用し、z方向は自由表面とした。

クラックシミュレーションにはLAMMPS[3]を用い、NPTアンサンブル、300 K条件下で実施した。系サイズは7,896~197,400原子であり、fix deformによりx方向へひずみ速度0.002~0.2 ps⁻¹の変形を与えた。

クラック発生のタイミングを定量的に評価するため、OVITO[4]を用いた多面体テンプレートマッチングにより、非六方晶原子の相対割合(relative disorder fraction)を算出した。

図2.対象とした2つのAlN配向の原子構造:a面(左)およびc面(右)
図3.系のサイズ依存性解析のためのGaN/AlNスーパーセル(7,896原子~197,400原子)

計算結果と展望

LPFPにおけるクラック発生起点はPFPと良好な一致を示す一方で、SWとは定性・定量的に異なる傾向を示した(図4)。特に、SWではひずみの小さい弾性領域において揺らぎが見られるが、この挙動はSWポテンシャルの不正確さに起因するアーティファクトであり、結晶の物理的な安定性を反映するものではないと考えられる。ただし、クラック伝播の挙動はLPFPとPFPの間でも異なるものの、最終的には両手法とも非六方晶原子の相対割合が同じ値でプラトーに達した。


 いずれの力場においても、クラックは系のサイズに依らずほぼ同じひずみで発生した(図5) 。クラック伝播挙動の差は、LPFPに比べてSWでより顕著であり、これはSWの弾性領域における不自然な揺らぎが影響している可能性がある。サイズが制限されたPFPおよび精度に限界のあるSWに対して、LPFPが高精度かつ大規模な計算可能なことが示された。なお、Relative disorder fractionは一定領域に対して「当ひずみの非六方晶原子数」を「初期の非六方晶原子数」で規格化した割合である。

図4.LPFP、PFP、およびSW(a面、1×1×1)における非六方晶原子の相対割合の変動とひずみの関係。挿入図は、SWに見られる弾性領域でのアーティファクトなゆらぎを示している。
図5.非六方晶原子の相対割合に対するシステムサイズの影響:LPFP(左)は一貫したスケーリングを示す一方、SW(右)は不規則な挙動を示す。

a面系では、c面系に比べてより大きなひずみに達するまでクラックによる割れが生じないことが分かった(図6)。これはGaN/AlN界面の違いに起因するものであり、GaNエピタキシャル層の作製において重要な知見である。c面系では界面に線欠陥が存在しており、ひずみの増加に伴ってそれらが縦(z)方向に成長することでクラックが生成し縦(z)方向へ成長した(図7)。これに対し、a面系では、シミュレーション初期にはGaN層内に点欠陥が存在するものの界面にはそうした欠陥が存在しておらず、ひずみによるクラックは界面ではなく、AlN層から発生した。

SWの弾性域における非六方晶原子の相対割合の変動に着目すると、初期界面の転位構造は両手法で同一であるにもかかわらず、SWでは不自然な増減が見られる。これは、SWにおけるエネルギーランドスケープの不正確なマッピングに起因するアーティファクトであり、結晶安定性を示すものではない。これに対し、LPFPではこのような揺らぎは見られず、PFPと整合する挙動を示した。この結果は、SWに対するLPFPの優位性を改めて示すものである。

図6.クラック発生の配向依存性:c面およびa面におけるLPFPとSWの比較(300 K、0.02 ps⁻¹)
図7.LPFPでのシミュレーションによる、c面(左)およびa面(右)でのクラック発生と成長(完全な六方晶の原子は省略)。点線はGaN/AlN界面の位置を示す。

計算条件

項目 詳細
Number of atoms 7,896 (1x1x1) to 197,400 (5x5x1) atoms; c-plane 189,039; a-plane 197,400
Elements Ga, N, Al (GaN on AlN, wurtzite structure)
Potential LightPFP, PFP (v8.0.0 r2scan), SW
MD LAMMPS
NPT: 0Pa 300K
p p f (periodic XY, free Z), reflective z-walls
deform x strain rate: 0.2, 0.02, 0.002 ps-1

参考文献

[1] R. Li, G. Wu, K. Liang, S. Wang, X. Sun, X. Han, L. Xue, H. Li, S. Liu, Effect of AlN substrate orientation on GaN film quality, Comp. Mat. Sci. 202, 110991 (2022).

[2] H. Li, H. Xiang, H. Huang, Z. Zeng, X. Peng, Interface structure deformation mechanisms of AlN/GaN multilayers. Cer. Int. 46, 11556 (2020).

[3] A.P. Thompson et al., LAMMPS — A flexible simulation tool for particle-based materials modeling. Comp. Phys. Comm. 271, 108171 (2022).

[4] A. Stukowski, Visualization and analysis of atomistic simulation data with OVITO – the Open Visualization Tool, Modelling Simul. Mater. Sci. Eng. 18, 015012 (2010).

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