
半導体デバイスは、シリコンウェハ上にナノスケールの構造を形成することで作られます。成膜、フォトリソグラフィ、エッチング、イオン注入、平坦化など、多くの工程を繰り返しながら、ウェハ上に微細な回路構造を作り込んでいきます。
こうした製造プロセスでは、材料の物性や表面・界面で起こる反応が、デバイス性能や歩留まりに大きく影響します。近年はデバイスの微細化が進み、ナノスケールでの材料挙動がプロセスの成否を左右する場面も増えています。
しかし、こうした現象の多くは実験だけで詳細に理解することが難しく、材料の振る舞いを原子レベルで解析する手法の重要性が高まっています。そのため近年では、材料シミュレーションを活用して表面反応や材料挙動を理解する研究が広く行われるようになっています。
本記事では、半導体製造プロセスの中でも「前工程」といわれる工程を材料シミュレーションの視点から俯瞰しながら解説します。まず半導体とは何か、どのような流れでデバイスが作られるのかを整理したうえで、各工程の目的や技術課題、そこで行われている材料研究について紹介していきます。
この記事でわかること
- 半導体とは何か?ウェハ・ダイ・配線層など基本構造の理解
- 半導体製造における前工程と後工程の違い
- 前工程(成膜、フォトリソグラフィ、エッチング、イオン注入、アニール、CMP、洗浄)の役割
- 微細化によって各工程で何が難しくなっているのか
- 各工程で材料シミュレーションがどのように活用されているのか(計算事例)
- 企業や研究機関における半導体シミュレーションの活用例(論文紹介)
目次
- 半導体とは?
- 半導体製造の前工程と後工程を解説
- 原子で膜を作る成膜(Deposition)とは
- 回路パターンを転写するフォトリソグラフィとは
- 不要な材料を削るエッチングとは
- 電気特性を制御するイオン注入とは
- 表面を平坦化するCMPとは
- 表面状態を制御する洗浄
- 企業の材料シミュレーションを活用した研究開発例
半導体とは?

半導体の構造イメージ
半導体とは、電気をよく通す導体と、ほとんど電気を通さない絶縁体の中間的な性質を持つ材料のことを指します。こうした性質を持つことから、「導体でも絶縁体でもない、その“半ば”の性質を持つ材料」という意味で半導体と呼ばれています。代表的な材料としてはシリコンがあり、この性質を利用して電流の流れを制御する電子部品が作られます。
半導体デバイスでは、この電流の流れを制御するための構造をシリコン上に作り込みます。現在の半導体チップの内部には、電気信号を制御する素子や、それらを接続する配線層などが複雑に配置されています。こうした電子回路の基本要素となるのがトランジスタであり、現代のコンピュータやスマートフォン、車載機器などの電子機器は、膨大な数のトランジスタを集積した回路によって動作しています。
半導体チップの構造は、単純な平面ではなく多層の立体構造になっています。シリコン基板の表面にトランジスタなどの素子が形成され、その上に複数の金属配線層が積み重なることで回路が構成されます。
こうした回路構造は、シリコンの円盤であるシリコンウェハの表面に形成されます。ウェハ上には同じ回路が多数作られ、その一つ一つの回路ブロックはダイ(die)と呼ばれます。製造の最終段階ではウェハをこのダイ単位に切り分け、それぞれが半導体チップとしてパッケージ化されます。
近年の最先端プロセスでは、2nm世代、さらには1.4nm級まで見据えた微細化が進み、トランジスタや配線はナノメートルスケールで設計・製造されています。こうした微細化は、高性能化と低消費電力化を実現するために進められてきました。しかし数ナノメートルの世界では、ほんのわずかな寸法のばらつきや材料差でも、デバイス性能に無視できない影響を及ぼします。材料物性や界面反応、原子レベルの構造そのものが性能を左右するため、製造プロセスの制御はこれまで以上に難しくなっています。
半導体製造の前工程と後工程を解説
半導体製造では、このダイの内部にナノスケールの構造を作り込むために、多くのプロセスが繰り返されます。こうした工程は大きく前工程と後工程に分けられます。
前工程(Front End Process)では、シリコンウェハ上にトランジスタや配線などの回路構造を形成します。代表的なプロセスとしては、薄膜を形成する成膜(Deposition)、回路パターンを形成するフォトリソグラフィ(Lithography)、不要な材料を除去するエッチング(Etching)、不純物を導入して電気特性を調整するイオン注入(Ion Implantation)、表面を平坦化するCMP(Chemical Mechanical Polishing)などがあります。これらの工程の間には、微粒子や反応残渣を除去する洗浄プロセスも繰り返し行われます。
最先端の半導体製造では、こうした工程が数百回以上繰り返され、材料組成、温度、圧力、反応条件など多くのプロセスパラメータを精密に制御しながらデバイスが作られています。
一方、後工程(Back End Process)では、前工程で作られたウェハをダイ単位に切断し、それぞれのチップをパッケージとして組み立てます。ダイシング、実装、封止などのプロセスを通して、半導体デバイスは電子機器に搭載できる形へと仕上げられます。_
加速する微細化と材料シミュレーション
こうした半導体製造プロセスでは、材料の物性や表面・界面で起こる化学反応がプロセス結果に大きく影響します。特にデバイスの微細化が進んだ現在では、数ナノメートルの膜厚制御や、原子レベルでの表面反応の理解が重要な課題となっています。
そのため近年では、こうした現象を理解するための手段として、材料の振る舞いを原子レベルで解析する材料シミュレーションが研究開発の現場で活用されるようになっています。

半導体の前工程と後工程の流れ
原子で膜を作る成膜(Deposition)とは
半導体チップの内部では、トランジスタなどの素子、それらを接続する配線、電気的に分離するための絶縁層など、さまざまな機能を持つ層が積み重なることで回路が構成されています。こうした層構造を形成する最初の工程が成膜(Deposition)です。
成膜とは、シリコンウェハの表面に材料を薄い膜として堆積させるプロセスです。半導体製造では、この膜の厚さは数ナノメートルから数十ナノメートル程度と非常に薄く、原子や分子が表面に付着して積み重なることで形成されます。
この工程で重要なのは、いかに薄く、均一な膜を形成できるかという点です。膜厚が場所によってばらついたり、膜が歪んだりすると、トランジスタの動作にばらつきが生じる可能性があります。また、膜が不均一になると基板との界面状態にも影響が生じ、欠陥が発生しやすくなります。
さらに、トランジスタの動作は膜の厚さに強く依存するため、わずかな膜厚の違いでも性能が変化します。近年の半導体では微細化が進み、デバイス寸法そのものがナノメートルスケールになっているため、それに対応して膜も非常に薄く形成する必要があります。
成膜にはさまざまな方法がありますが、半導体製造では主に次のような手法が利用されています。
成膜の手法とは?PVD・CVD・ ALDの違い
PVD(Physical Vapor Deposition)

PVD(Physical Vapor Deposition)の仕組み
PVDは、材料を物理的に蒸発・飛散させてウェハ表面に付着させる方法です。代表的な手法としてスパッタリングがあります。金属膜の形成に広く利用されており、装置構造が比較的シンプルであるという特徴があります。一方で、粒子が直進的に飛ぶため、微細な構造の奥まで均一に膜を形成することが難しい場合があります。
CVD(Chemical Vapor Deposition)

CVD(Chemical Vapor Deposition)の仕組み
CVDは、気体状の前駆体ガスを反応させることで、ウェハ表面に固体膜を形成する方法です。化学反応によって膜が生成されるため、比較的均一な膜を形成しやすく、さまざまな材料の成膜に利用されています。ただし、高温プロセスになる場合が多く、材料や基板への影響を考慮する必要があります。
ALD(Atomic Layer Deposition)

ALD(Atomic Layer Deposition)の仕組み
ALDは、化学反応を原子層単位で制御しながら膜を形成する手法です。反応を段階的に進めることで、非常に高い膜厚制御と均一性を実現できます。微細な構造の内部まで均一に膜を形成できるため、最先端半導体プロセスで重要な技術となっています。一方で、成膜速度が比較的遅いという特徴があります。
成膜材料と微細化による課題
半導体の成膜工程では、多様な材料が使われます。代表的なものとしては、絶縁膜として使われる二酸化ケイ素(SiO₂)や窒化ケイ素(Si₃N₄)、配線や電極に用いられるタングステン(W)や銅(Cu)などがあります。また、トランジスタ性能を高めるための高誘電率材料(HfO₂など)や、配線層のバリア材料として使われるTiNやTaNなども重要な材料です。
半導体の微細化が進むにつれて、こうした材料に求められる性能も高度化しています。膜厚は数nmレベルまで薄くなり、材料の性質だけでなく、原子レベルの構造や界面反応がデバイス性能に大きく影響するようになっています。
そのため近年では、こうした現象を理解する手段として、原子レベルで材料構造や表面反応を解析できる材料シミュレーションが重要な役割を担うようになっています。
成膜で行われる材料シミュレーション例
では具体的にどのようなシミュレーションが行われるか代表的な例を紹介します。
①基板表面における反応経路解析
ALDでは、有機金属化合物などの前駆体(プリカーサ)を基板表面で化学反応させて成膜を行います。そのため、効率的な前駆体を設計するには、分子レベルで表面反応のメカニズムを把握することが重要です。例えばMatlantisを用いた事例[ref]として、水素終端Si(111)表面とコバルト前駆体の反応経路シミュレーションがあります。この解析により、実際の反応が「Co原子の表面結合」と「水素およびアリル基の脱離」という2段階のプロセスを経て進むことが可視化されました。
さらに、特定の表面にのみ吸着する分子をシミュレーションで評価することで、Area-Selective ALD(AS-ALD)向けの前駆体探索など、より高度なプロセス開発への応用も可能です。

MC-AFIR計算に用いた構造モデルと得られたEQ.(出展:https://matlantis.com/ja/calculation/analysis-of-urface-reaction-mechanism-between-ald-precursor-and-substrate/ )
回路パターンを転写するフォトリソグラフィとは

フォトリソグラフィは、半導体回路のパターンをウェハ上に形成する工程です。光を利用して回路パターンを転写することで、ナノスケールの微細構造を作り出します。具体的には、ウェハ表面に感光材料であるレジストを塗布し、マスクを通して光を照射することで、回路パターンに対応したレジスト形状を形成します。
近年の半導体プロセスでは、極端紫外線(EUV)を用いた露光技術が導入されるなど、フォトリソグラフィ技術も大きく進化しています。微細化が進むにつれて、光学設計やレジスト材料の特性、プロセス条件の最適化など、多くの技術要素が高精度に制御されています。
特にEUV露光では、光を効率よく吸収するスズ(Sn)などを骨格とした「メタルレジスト」が次世代材料として注目されています[1]。複雑な金属錯体を探索するうえで鍵となるのが材料シミュレーションです。光の吸収現象自体は量子化学計算の領域ですが、最終的なパターンの良し悪しを左右する「塗布時の均一な膜形成」や「露光後の加熱(PEB)に伴う架橋反応」[3]「現像液との界面現象」[4]といった大規模な熱・構造ダイナミクスには、材料シミュレーションが威力を発揮します。実際に、金属酸化物レジストの化学的・材料的プロセスに基づいた確率的リソグラフィモデルを構築し、実験データと照合する取り組みも進められています[5]。プロセス全体の複雑な反応をナノスケールで可視化することで、レジスト開発が加速する可能性があります。
不要な材料を削るエッチングとは
エッチングは、ウェハ上に形成された材料のうち、不要な部分だけを削り取る工程です。フォトリソグラフィによって作られたレジストパターンを保護膜として利用し、その部分を残しながら周囲の材料を除去することで、回路パターンをウェハ上に形成します。
成膜によって形成された薄膜を加工する工程であり、フォトリソグラフィと組み合わせて使用されることで、半導体回路の微細構造が作られます。エッチングでは大きくウェットエッチングとドライエッチングと呼ばれる手法が用いられます。

エッチングの方法 ウェットエッチングとドライエッチングの違い
ウェットエッチング
ウェットエッチングは、液体の薬品を用いて材料を化学的に溶かして除去する方法です。比較的シンプルなプロセスであり、均一に材料を除去しやすいという特徴があります。
一方で、薬液による反応は材料の上下左右方向にも進むため、削りすぎてしまうなど微細なパターンを高精度に加工する用途には向かない場合があります。そのため、現在の最先端半導体プロセスでは限定的な用途で利用されています。
ドライエッチング
ドライエッチングは、液体ではなくガスを用いて材料を除去する方法です。まず、加工する膜材料に合わせたガスを装置内に導入し、そこに電気エネルギーを加えることでガスを活性化させます。するとガスはプラズマ状態となり、イオンやラジカルといった反応性の高い粒子が生成されます。
これらの粒子が材料表面と反応したり、イオンが基板表面に垂直方向から衝突したりすることで、材料が削り取られていきます。横方向への加工を抑えながら材料を削ることができるため、ナノスケールの微細構造を高精度に形成することが可能です。
そのため現在の半導体製造では、ドライエッチングが広く利用されています。
微細化とエッチングプロセスの課題
半導体の微細化が進むにつれて、エッチングプロセスの制御もますます難しくなっています。数ナノメートルレベルの構造では、材料ごとの反応性や表面で起こる化学反応、プラズマ中の粒子挙動などが加工精度に大きく影響します。
また、ある材料だけを削り取り別の材料は残す「エッチング選択性」を高精度に制御することも重要な課題となっています。
エッチングで行われる材料シミュレーションとは
エッチングプロセスでは、プラズマ中で生成されたイオンやラジカルが材料表面と反応し、原子レベルで材料が除去されていきます。しかし、こうした反応はナノスケールの表面で起こるため、実験だけで詳細なメカニズムを理解することは容易ではありません。
そのため近年では、原子シミュレーションを用いて表面反応や材料除去のメカニズムを解析する研究が行われています。
エッチングに関連した代表的なシミュレーション例には以下のようなものがあります。
②SiO₂のドライエッチング
フッ化水素(HF)ガスによるSiO₂のドライエッチングをMatlantisで再現しました。従来の手法(DFT)では計算不可能な約72,000原子という大規模な系において、表面にエッチング孔が形成される様子を再現することに成功しました。この大規模シミュレーションにより、最適なガス組成や入射エネルギーといったプロセス条件を効率的に導き出すことが可能になります。

HFガス衝突後のSiO2スラブの構造変化 (出展:https://matlantis.com/ja/calculation/sio2-dry-etching-simulation-using-lightpfp/ )
電気特性を制御するイオン注入とは

イオン注入(Ion Implantation)は、シリコン基板に不純物原子(ドーパント)を導入して電気特性を調整する工程です。ホウ素(B)やリン(P)、ヒ素(As)などのイオンを高エネルギーで加速してウェハ表面に打ち込むことで、トランジスタのソース・ドレイン領域やウェル構造など、デバイス動作に必要な不純物分布を形成します。なお、注入直後の不純物は電気的に機能せず結晶構造も破壊されているため、セットとして行われるアニール(熱処理)によって不純物の活性化と欠陥の回復を行います。
イオン注入とアニールでは、打ち込まれたイオンのエネルギーや角度、ドーズ量、そして熱処理の条件などによって、不純物の深さ方向の分布や基板へのダメージの回復度合いが変化します。微細化が進むにつれて、数nmレベルでの不純物分布の制御が求められるようになっており、プロセスの最適化がますます重要になっています。
こうしたプロセスにおいても、材料シミュレーションによる原子レベルの解析が活用されています。以下のイオン照射シミュレーション(③)のように、高エネルギーイオンが基板に衝突した際の原子変位やカスケード損傷、注入されたイオンの停止位置やその後の熱による拡散などを分子動力学計算で追跡することで、実験では直接観察が難しいプロセスの詳細を理解することができます。
③イオン照射シミュレーション
ドライエッチングにおける高エネルギーイオンと材料表面の衝突過程を理解するため、分子動力学(MD)シミュレーションが活用されています。Matlantisでは、Si(111)表面へのアルゴン(Ar)照射シミュレーションが可能です。入射エネルギーや角度を変化させながら非平衡ダイナミクスを計算することで、イオン衝突による表面損傷や原子変位などの物理的効果を原子レベルで評価し、プロセス最適化に繋げることができます。

Si表面へのAr原子照射シミュレーション(出展:pfcc-extras計算事例より)
表面を平坦化するCMPとは
半導体チップの内部では、成膜やエッチングによってトランジスタや配線、絶縁膜などの層が何度も積み重ねられていきます。しかし、こうした工程を繰り返すとウェハ表面には徐々に凹凸が生じてしまいます。表面の凹凸が大きくなると、回路パターンの精度が低下する可能性があります。
そこで行われるのがCMP(Chemical Mechanical Polishing)工程です。CMPは、ウェハ表面を化学的・機械的に研磨することで、表面を平坦に整えるプロセスです。成膜やエッチングによって形成された層構造の凹凸を除去し、次の工程でも高精度に回路パターンを形成できる状態を作る役割を担っています。
CMPでは、回転する研磨パッドの上にウェハを押し当てながら、スラリーと呼ばれる研磨液を用いて研磨を行います。スラリーには研磨粒子(砥粒)や化学反応を促進する薬品が含まれており、材料表面を化学反応によって柔らかくしながら、機械的な摩擦によって少しずつ削り取っていきます。この化学作用と機械作用を組み合わせることで、ナノメートルレベルの精度で表面を平坦化することが可能になります。
CMPは、単なる研磨ではなく金属配線層の形成においても重要な役割を果たしています。例えば銅配線プロセスでは、配線溝に銅を埋め込んだ後、余分な銅をCMPによって除去することで配線構造を形成します。

CMP(Chemical Mechanical Polishing)の概要
CMPプロセスの課題
半導体の微細化が進むにつれて、CMPプロセスの制御もますます難しくなっています。例えば、材料によって研磨速度が異なるため、ある材料だけが削れすぎてしまったりといった現象が問題になることがあります。これらの現象は、配線の信頼性や電気特性に影響を与える可能性があります。
CMPでは研磨パッド、スラリー粒子、材料表面の相互作用が複雑に関係しています。研磨粒子の大きさや濃度、化学反応の進行、機械的な摩擦条件など、多くのパラメータが研磨結果に影響するため、プロセス条件の最適化が重要な課題となっています。
CMPで行われる材料シミュレーション
CMPプロセスでは材料シミュレーションを活用した研究も進められています。例えば、研磨スラリー中の粒子と材料表面との相互作用や、表面の化学反応による材料除去メカニズムなどを原子レベルで解析することで、研磨速度や選択性の違いを理解する研究が行われています。
④ SiO₂粒子によるSi研磨の分子動力学シミュレーション
この解析では、SiO₂粒子に垂直の荷重と水平の駆動力をかけて基板上を移動させ、実際の研磨過程をモデル化します。計算の結果、駆動力が大きいほど多くのSi原子が除去される物理的挙動が確認されました。
特筆すべき点として、この傾向はMatlantisの標準モデル(PFP)と計算コストを抑えた軽量モデル(LightPFP)の双方で一致しており、LightPFPでも研磨プロセスを再現できることが示されています。

CMPのMDシミュレーション事例 (出典:https://arxiv.org/abs/2510.23064 )
表面状態を制御する洗浄
半導体製造では、成膜やエッチングなどの各工程の前後に洗浄プロセスが繰り返し行われます。洗浄は単なる汚染除去ではなく、パーティクルや有機残渣、金属不純物を除去し、次工程に適した界面状態を形成する重要な役割を担っています。
洗浄プロセスには主に湿式洗浄と乾式洗浄があり、薬液によって汚染物質を除去する湿式洗浄は高い洗浄能力を持つ一方で、微細化が進んだパターン構造では乾燥工程における表面張力が構造変形や倒壊(パターンコラプス)を引き起こすことがあります。そのため近年では、プラズマやガス反応を利用した乾式洗浄や、表面張力の影響を低減するプロセス設計の重要性が高まっています。
また、洗浄条件によって酸化膜の除去や表面終端状態が変化し、その後の成膜初期成長や界面準位密度、密着性、接触抵抗などに影響を与えることも知られています。
このように洗浄工程では、残渣除去だけでなく吸着・脱離反応や表面終端形成、さらには微細構造安定性といった複数の原子レベル現象が関与しており、近年ではこれらの理解や最適化にも材料シミュレーションが活用される場面が広がっています。
企業の材料シミュレーションを活用した研究開発例
半導体デバイスの微細化が進む現在では、膜厚数ナノメートルの制御や界面構造の違いがデバイス性能や歩留まりに大きく影響するようになっています。そのため、表面反応、欠陥生成、拡散、界面形成といった原子レベルの材料挙動を理解することが、プロセス開発においてますます重要になっています。
こうした現象の多くは実験だけで直接観察することが難しいため、材料シミュレーションを活用してプロセス中で起こる反応や構造変化を解析する取り組みが広がっています。近年では、大規模かつ高速な原子シミュレーションが可能になったことで、従来は困難だったプロセス条件の比較検討や材料設計にも応用が進んでいます。
具体的に半導体の研究開発でシミュレーションが活用されている論文を事例としてご紹介します。
【事例提供者:株式会社SCREENホールディングス】分子計算と機械学習によるSi表面に対する低吸着エネルギー分子のデータ駆動型探索

H終端のSi表面モデルの概要図
半導体製造では、Si基板表面に残渣を残さない高い清浄度が求められており、新たな薬液候補の探索が進められています。しかし、膨大な候補材料を実験だけで評価することは容易ではありません。
本事例では、Matlantisによる原子レベルシミュレーションと機械学習を組み合わせ、Si表面への吸着エネルギーを指標として有望分子を効率的に探索するデータ駆動型手法をご紹介します。広大な材料空間から実験検証すべき候補を絞り込むアプローチです。
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シリコン酸化膜表面を模した系でのTMAの反応解析

半導体製造プロセスでは、成膜前駆体と基板表面との反応機構を理解することが、材料選定やプロセス最適化において重要です。一方で、固体表面上での反応解析をDFT計算で実施するには、多くの計算資源と時間を要します。
本事例では、シリコン酸化膜表面を模した系において、ALD前駆体として広く用いられるトリメチルアルミニウム(TMA)の反応経路をMatlantisで解析しました。NEB計算によりDFT計算と同等の精度で活性化エネルギーを評価しながら、複数候補のスクリーニングを現実的な時間で実施できる可能性を示しています。
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引用
[1] S. Kim et al., “Organometallic and coordinative photoresist materials for EUV lithography and related photolytic mechanisms,” Coordination Chemistry Reviews, vol. 493, 215307, 2023.https://doi.org/10.1016/j.ccr.2023.215307
[2] S. Grzeskowiak et al., “Multinuclear Tin-Based Macrocyclic Organometallic Resist for EUV Photolithography,” ACS Applied Materials & Interfaces, 2024.https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11393934/
[3] D. Kim et al., “Computational approach on PEB process in EUV resist: multi-scale simulation,” Proc. SPIE, vol. 10143, 2017.https://doi.org/10.1117/12.2258029
[4] J. Lee et al., “Coarse-Grained Modeling of EUV Patterning Process Reflecting Photochemical Reactions and Chain Conformations,” Polymers, vol. 15, no. 9, 2023.https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10180770/
[5] C. D. Needham et al., “Advanced simulations using an improved metal oxide photoresist model,” Proc. SPIE, vol. 12957, 129571B, 2024.https://doi.org/10.1117/12.3010941